後日譚☆赤い絨毯と花びら
晴れやかなその日。
新しい王が即位する儀式が執り行われた。
「さあ、前に進むのです」
新しい王の母親が、そういって彼の背中をおした。
「新王ばんざーい!」
「シンドレッド様、エレ様ばんざーい!」
人々が口々に叫んでいる。
玉座まで長い回廊を敷き詰められた赤い絨毯。
その上を一歩一歩進んでゆく新王。
ぱらぱら。
摘みたての花びらが新王の頭上に降り注ぐ。
「ああ。私はこれが見たかったのです」
新王の母親がうれし涙を流しながら見守っていた。
「お姉さま」
「麻也」
「本日は誠におめでとうございます」
「ありがとう」
「今日の良き日に思い出の記念写真を撮りませんか?」
「写真?撮ることができるの?」
「ええ。……昨日異世界から立ち寄ったデルムントが私たちの元の
「デルムント?」
「お忘れですか?」
「いいえ、いいえ。忘れるわけないじゃないですか」
「両親も友人たちも元気だったそうです」
「まあ」
絵礼の目から大粒の涙があふれ出た。
麻也は余所行きの服の袖で姉の涙をぬぐってやりながら、微笑んで、新王の歩いてゆく後ろ姿を一枚撮った。
「何枚か撮って、現像したら、あとはこの世界ではこの機械類は使えなくなってしまうそうです」
「それでは、大切に撮らなければ」
「お姉さまと私の並んだ写真も欲しいですね」
「もう、だいぶ年を取ってしまったわ」
「それは言いっこなしですよ」
麻也はこれまで独身を貫き通していた。
「麻也。私はあなたに謝らなければ」
「何をです?」
「ずっと嫉妬していたの」
「そんなこと、気にしません」
「でもね、麻也。あなた寂しくないの?」
「お姉さまがいるではないですか」
心から麻也は言っていた。今になって、絵礼にもそれがわかった。
「麻也」
絵礼は麻也を抱きすくめた。
「私たち、幸せですね。お姉さま」
遠い高い空の向こうに思いをはせて、姉妹は異世界で元気に暮らしている。