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第12話

「さ、佐藤!? どうしてこんなところに!?」

 振り返ったら、宮本美夜子がいた。

 ツインテールのキャピキャピした女子。

 制服のスカートの下に体操着のズボンを履いてスケベ対策をしている。つまり下手に近づかなければ、ラッキースケベで死ぬことはなさそうだ。

「どうしてっていうか、今食堂に行っていいのかどうか迷ってただけだよ」

「そ、そう。まあ、あなたの行動なんて全然興味ないけど」

 宮本美夜子はご自慢のツインテールを指でくるくるといじりながら、そっぽを向いた。

 俺はこの女子のことが正直よく分からない。どちらかと言うと嫌われているような気はしているが、なぜか用事もないのにときどき話しかけてくる。

「興味ないなら聞くなよ……」

「あたしの自由でしょっ! 話しかけちゃいけないって言うの!?」

「いやそこまで言ってないけど。というか宮本さんこそ、ここで何を?」

「もちろんこのスマホに届いたミッションのためよ」

 宮本さんはスマホを俺に見せた。

「ここに、『カップルでランチを食べなさい』と書いてあるわ」

「いや『男女二人一組』だよな? 曲解しすぎじゃね? それで?」

「それで、たまたま、偶然にも、あなたがひとりぼっちで、孤独なオーラを放ちながら、捨て猫みたいにここで立ち尽くしているのが見えたのよ」

「俺、孤独なオーラ出てるの?」

 あと立ち尽くしていたというより、ただ少しの間、考え事をしながら立っていただけのつもりなのだけど。

「まあ、そういうわけだから、どうせ一緒に昼食をとる相手もいないでしょうと思って、クラスメイトとしていちおう、声をかけてあげたのよ」

「その割にはさっき驚いてなかったか?」

「お、驚いてなんかいないわ! 哀れな子羊に同情していただけよ!」

 そんな感じには見えなかったが、本人がそう主張するのだから、そういうことにしておこう。……あいかわらず、わけの分からんヤツ。

「つまり宮本さんは俺をランチに誘ってくれたということで合ってる?」

 あれ? よく考えたら女子から食事に誘われるのって初めてじゃないか? 死ぬか生きるかがかかっている状況でなければ、俺はちょっと喜んでいたかもしれない。

「違うわ!」

 宮本美夜子はツインテールがちぎれるんじゃないかと思うほど、激しく頭を横に振った。

「ミッションをクリアできないと、し、し、死ぬって、このアプリに」

「書いてあるな」

「だから、仕方がないから、あたしが一緒に食堂に行ってあげましょうか、と言いに来たのよ」

「つまり俺をランチに誘ってくれたと……」

「違うわっ! 誘ってない! あたしはあなたを憐んでいるだけでっ……」

「同じじゃん」

「同じじゃなーいっ!」

 めんどくさいヤツ。何が言いたいのか、何がしたいのか、毎回こんな感じで分からない。

 やっぱり嫌われているのか?

 まあ、確かにミッションのクリア条件は『男女二人一組になって一緒にスペシャルランチを完食する』こと。どうせ誰かを誘わなければならないなら、スケベ対策のできている宮本さんを誘うのも悪くはない。俺と宮本さんがスケベなラブコメみたいな展開になることはないだろうし。うん、ないな。

「じゃあ、まあ、細かいことはどうでもいいから、俺と一緒にミッションをクリアしに行ってくれますかね? 念のため距離は二メートルくらい離れて」

「そんなにあたしとランチがしたいなら、行ってあげないこともないわ。哀れな子羊を一匹だけ残していくわけにもいかないから」

「いや、俺は別にどうしても宮本さんがいいとかじゃなく、ただ生き残るために……」

 宮本美夜子は俺の話をまったく聞いておらず、

「さあ、そうと決まれば行きましょう! 食堂は目の前だわ。そういえば、これっていわゆる、デ、デートってやつよね!? 正確に言えば校内デート!?」

 なぜか顔を真っ赤にしている宮本さん。ツインテールをぎゅっと握りしめて引っ張って、痛くないのだろうか?

「違うと思う。これはただのミッションであって……」

「ううっ……男性と校内デートだなんて、考えてみれば初めてだわ。一回目から手を繋いだり、キ、キスとかしたりするのかしら……?」

 宮本美夜子はやはり俺の言葉をスルーして、よく聞こえない声でボソボソと何かをつぶやいていた。

 なんだか、不安になってきた。



1日目 12:25

生存者 21人


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