一階を見回ったが、誰もいなかった。たまたま女子と会えたら、ミッションを一緒にやってもらおうと思ってもいたので、当てが外れたことになる。
俺はとりあえずミッションの会場である食堂へ向かった。
食堂はB棟とC棟からすぐ近くにある、独立した建物だ。
一階建てだが、かなりの人数が同時に食事をとれる広さがある。
食堂に向かう途中、C棟のほうから食堂へと歩いていく男子生徒の二人組を見かけた。たぶん食堂でペアになってくれる女子を探すつもりなのだろう。よく考えたら、みんなミッションをこなすために食堂を目指して来るわけだから、食堂の入り口で待っていれば全員にスケベ対策の作戦を伝えられる。しかし、みんなが集まるのはラッキースケベが起こるリスクが高まって危険でもある。
どうする? みんなよりもあえて遅れて行くか? あまり遅いとペアになってくれる女子がいなくなってしまうのでは? いや、早く行ったところで、俺とペアになってくれる女子なんて……。
こんなとき、桃井さんがいたら、きっと「佐藤くん、ペアが見つからないんですか? じゃあ私がペアになってあげますよ」と言ってくれたかもしれない。桃井さんは俺みたいな可哀想なヤツにも平等に対等に接してくれて、気も使ってくれて、まさに女神のような人だった……。ああ、桃井さん、好きだ……。
「佐藤くん、どうしたんですか?」
呼ばれて振り返ると、爆死したはずの桃井さんが立っていた。
「へ……? 桃井さん?」
「はい、桃井桃華です」
俺は手で自分の目を擦ったが、桃井さんは消えなかった。
「桃井さんは、教室で、死んだんじゃ……?」
その女神は笑って頭を横に振った。甘い桃の香りが俺の鼻口をくすぐる。
「あれは立体映像です。この私が本物です」
「いや、そんなはずはない。ありえない。だって、あんなにリアルだった。血だって、めちゃくちゃ出てた。あれが映像だなんて、そんな……」
「ここにいる私のほうがリアルですよ? だって、ちゃんと触れます。……佐藤くんなら、触っても構いません。どこでも、触りたいところを」
「え?」
俺は無意識のうちに、桃井さんの胸元のパツパツの膨らみを凝視していた。シャツのボタンが今にもはじけ飛びそう。
桃井さんが両腕で、その圧倒的な膨らみを隠した。
「胸ばかり見ないでください……」
頬を赤らめて視線をそらす桃井さん。
「あっ、ご、ごめん!」
俺は自分の愚かさを恥じて謝った。
何してるんだ俺は! 桃井さんをこんな嫌らしい目でジロジロと見るなんて。桃井さんは女神なんだぞ? もしも桃井さんに嫌われるようなことがあったら、それこそ俺はおしまいだ。自重しろ! それに、俺ごときが本当に桃井さんの体に触れていいわけがない。
だが、返ってきたのは、意外な言葉。
「……でも、いいですよ。少しだけ。佐藤くんなら……」
恥じらう桃井さんと目が合った。
視線を下げると、桃井さんの両腕から解き放たれた二つの豊満すぎる膨らみ。
「ほ、本当に?」
「……はい。でも、優しく触ってください。こんなこと、初めてなので……」
「いや、ちょっと待て。俺は何をしているんだ?」
俺は我に返った。
周りには誰もいない。
うっかり桃井さんでハレンチな妄想をしてしまった。スケベなラブコメでよくある、主人公に都合の良い妄想だ!
まずい。やらかした。
ラッキースケベは死だ!
もしかして、俺も爆死するのか!?
いやだ! 死にたくない! おっぱいに顔をうずめたわけでもパンツを見たわけでも拾ったわけでもないのに死ぬなんて嫌だ! しかもまだ俺は童貞だ、一度も女子とイチャイチャしたことがないんだ許してくれお願いだ助けてくださいせめて死ぬ前に妄想じゃなくてちゃんとしたラッキースケベを俺にも味わわせてくれ……!
どこかで見ているかもしれない黒幕に土下座をした。
……何も起こらなかった。
許された?
というか、単にスケベな妄想を脳内で繰り広げただけでは、首輪は爆破しないのでは? 良心的設計だ。
さて、俺はどうしようかと迷って、とりあえず離れたところから食堂の様子を見ることにした。すると、今度は女子生徒の二人組が現われた。制服姿だが、スカートの下に体操着の長ズボンを履いており、スケベ対策がしっかりとできている。東山さんか伊集院慧がすでに作戦を伝えたのだろう。これならみんなが食堂に集まっても、危険は低そうだ。
ならば俺も食堂へ行こう。腹も減ってきたし。ここでじっとしていても、誰ともペアになれずに、いずれ死ぬことになるんだし。
そのとき、
「さ、佐藤!? どうしてこんなところに!?」
呼ばれて振り返ると、今度は妄想ではなく、ちゃんと生きた女子生徒がいた。
1日目 12:19
生存者 21人