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第9話

 俺は血の噴水から思わず顔をそむけた。二人の身体が倒れた音。

 胸に釘を打ち込まれるような痛みで、俺は息もできない。その場に膝から崩れ落ちる。

「くそっ! 俺のせいだ。俺が、小森さんは体操着に着替えたから、かなり安全だとか言ったから、二人とも油断したんだ」

 愚かにも俺は、小森さんが脱いだパンツをどうしたかまで考えていなかった。パンツがどこにあるか、早く聞くべきだったのに。

 実際、小森さんは、脱いだパンツを自分で持っていたのだ。代わりのパンツがない以上、履いていたパンツを手放してしまったら、最悪ずっとノーパンになってしまう。だからパンツをどこかに隠し持っていたことくらい、少し考えれば想像できるのに。

 ただし、小森さんの下着の色が黒だということは、完全に予想外だった。けっこう大胆な人だったのかな……。きっと白か淡い色だと思ってたな……。

「くそっ! くそっ!」

 俺は床にうずくまったまま、唇を噛んだ。

 どのくらいそこでそうしていたか、分からない。

 二人の変わり果てた姿を見る勇気はないが、俺にはやらなければならないことがある。

 俺は立ち上がり、スマホを取り出した。アプリを開き、時間を確認する。11:30だ。二十分くらい時間を無駄にしてしまった。

 ついでに何気なく生存者情報も見てみた。

「は……? 21人!?」

 少なくないか? だって、俺の見聞きした人数は、桃井さん、黒矢、西山ほのか、花岡、大久保、そして小森さんと男子生徒A。七人だ。だから、23人が生存しているはずなのに。

 なぜか二人多く死んでいる。

 名前の一覧をスクロールしたら、死んだやつの名前が分かった。

 桐生修斗きりゅう しゅうとと、高町夏美たかまち なつみ。運動神経抜群の美男美女。

「マジかよ……」

 こいつら、普段からかなり仲が良かったみたいだし、こっそりちちくりあっていたのでは?

 まあ、そんなことはどうでも良い。大切なクラスメイトが死んだのは、疑いようのない事実。

 まだこのイかれたゲームが始まってから、二時間半しか経っていない。それなのに、九人も死んだ。このペースでいけば、残っている21人は初日で全滅じゃないか……。

 早くみんなに「体操着でチラ見え防止作戦」を伝えなければ、また新たな犠牲者が出てしまうかもしれない。あと脱いだパンツは絶対に落としたり他人に見せたりしないこと、他人が落としたものを安易に見たり拾ったりしないこと、という注意喚起もしておいたほうがいいだろう。

 俺は小森さんと男子生徒Aが爆死した階段のほうは避けて、反対のほうに廊下を進んだ。

「誰かいるか? 死にたくなければ体操着を着るんだ! あと脱いだパンツはちゃんとしまってくれ」

 俺はそんなふうに大声で注意喚起しながら、B棟の四階から二階までを歩き回った。幸か不幸か、誰にも会わなかった。みんな、遠くに逃げてしまったのかもしれない。校舎内は不気味なほど静かだ。

 一階に降りてきたとき、いきなりピロン! と音が鳴って心臓が口から飛び出そうになった。ポケットのスマホが鳴ったらしい。

「おどかすなよ……紛らわしい音、出しやがって」

 画面を見てみると、例のアプリのアイコンに通知が「1」と表示されていた。



1日目 12:00

生存者 21人


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