「取りあえず、帰ったら風呂はいるぞ風呂」
瞳と髪は元に戻り、血まみれの顔のセイが車を運転していた。
裕一朗は何か考えているようだった
「俺、『上弦の
『ああ、多分そうだろうと思った。俺と同じ匂いがしたからな」
「セイは分かってたの?」
「ああ、お前覚えてないか。お前をゴミの山から引っ張り出した時、
「俺、覚えてない」
「少しずつ思い出していけばいいさ」
「セイは良かったの? 戻らなくて」
「ああ、もう過ぎたことだ」
「カードは貰ってたね」
「何かの役に立つかもしれないしな。さ、家へ帰ろう。風呂が待ってる」
そう言って、セイは車のスピードを上げる。
「わ、セイとばしすぎ!」
「俺は早く風呂に入りたいんだ、とばすぞ!」
「わぁぁぁー」
暗闇の中で、裕一朗の絶叫が響き渡った。
「あー一仕事した後の風呂は最高だな」
ビールを飲みながらセイが言った
「助手席に乗ってた俺は、最悪の気分だがな」
ラムネを片手に裕一朗が言った。
転がってたリモコンを片手に、適当にチャンネルを回す。
「先ほど入ってきたニュースです。『翠麗塔』のプラグ候補輸送車が何者かに襲われ、奪取されました」
「おー、ニュースになってる」
「さすがに、あれだけの大立ち回りをやらかしたんだ。ニュースにもなるわな」
「アルハ達、無事に逃げられたかな」
「確保された、というニュースは入ってきてないから 恐らく無事に逃げおおせたんだろう。心配なら
「ううん。夜遅いからいいよ。明日のニュースを見ればいいことだし」
そう言ってラムネを飲み干して、立ち上がる。
「布団敷くよ、ちゃぶ台片付けて」
その声に慌ててビールを飲み干して、台所へ向かう裕一朗に手渡す。
そして、ちゃぶ台を片付けて、布団が引けるようにする。
「よいしょっと」
そう言って、布団を二組引く。
「んじゃ俺寝るね」
裕一朗が言う
「ああ、お休み」
そう言ってセイが電気を消す
けたたましい目覚ましの音で裕一朗は眼をさました。
手探りで目覚ましを止め、暫く布団の中でゴソゴソしていたが、やがて意を決したように布団から這いずりだした。
「おはよう」
大きな欠伸を一つしながら、台所で料理するセイに挨拶をする。
「おー、おはよう。今日はチャーハンだ。座って待ってな」
そう言いながら、セイは一心に中華鍋を振るう。
裕一朗は布団を上げて、ちゃぶ台をセットして座る。
そして、何気なくテレビのリモコンを取り上げ、チャンネルをニュースに変える。
どうかアルハとライツが、無事に逃げられますように。祈るような気持ちで、ニュースを見ていた。
ハープ橋の上での攻防戦はまだ伝えていたが、アルハとライツが捕まったという情報は、一つもなかった。
「よかった」
「何が良かったんだ?」
チャーハンを両手に持ってきたセイが聞く。
「アルハとライツ、無事に逃げられたみたいだ。ニュースになってない」
「そか、よかったな。チャーハンさめる前に食べな」
「うん」
そう言ってレンゲを手にとってチャーハンを掬う。が、そこで動作が止まる。
「どうした? 熱くて食べられないか?」
セイが聞く
「ううん、只、俺にも父さんや母さんがいるかも知れないと思うと……」
「会ってみたいか?」
「うん。可能性は少ないだろうけど、セイみたいに、お母さんのお腹の中から生まれたのなら、会ってみたい」
「……、なら行ってみるか『上弦の
「うん」
「実験体だとばれたら、戻ってこれないかも知れないぞ」
「それでも行ってみたい」
「そうか、じゃあ近々行ってみるか」
「ウン」
「それじゃまず、目の前の問題から片付けないとな。金銭問題という問題だ。飯喰って、また漁りに行け」
「ああ、それなんだけど」
ゴソゴソとツナギを漁り、幾ばくかの基板を差しだした。
「一応昨日がめといた。4脚戦車の基板」
「お前、いつの間に!」
「セイが立ち回りしてる時に、ちょちょっとね」
「手が早いな、全く……」
「まぁね。それじゃ俺、行ってくるわ」
いつの間にかツナギに着替えて、編み上げ靴を履きながら裕一朗が言った。
「ああ、気をつけてな」
玄関先で手を振って、裕一朗は元気よく掛けていった。
いつもと変わらない日常がまた始まる。小さな希望と大きな絶望を孕んで。
それでも少年はいつもと変わらない日常を謳歌している。
小さな希望を心にともして。