「セイ……、まだ生き残っていたのか」
その会話の間に、弱々しい老人の声が聞こえて来た。
「あんたは……、イルラ博士! まだ生きていたのか!」
憎々しげにセイがその名を呼んだ。
「アルハ、早く行け、あんまりゆっくりしていると巡警や高警が来る」
「分かりました。でもあなた方は……」
「何とかなるから早く行け!」
セイの怒声が響き渡る。
「……、分かりました、幸運を」
そう言い残して、アルハとライツを乗せた車は去っていった。
「この爺さん知り合い?」
訝しげな顔で、裕一朗が尋ねる
「イルラ博士といって、生物クローン学の権威だ」
「25年程前、『
そこでふぅ、とイルラ博士は深呼吸をした。
「計画は失敗じゃった。人工の子宮では根付かなかったのじゃ。そこでワシは……、自分の精子と妻の卵子を特殊処理した後、妻の子宮を使って孕ませた」
「じゃぁ目の前にいるのは……」
裕一朗が驚愕の表情を浮かべる
「俺の本当の親だよ」
何の感情も籠もっていない声で、セイが告げる。
「何故俺のような化け物を作った、俺だけでなく裕一朗まで!」
「ワシは一度も、お前を化け物と思ったことはない。10年前、家を飛び出していったとき、八方手を尽くしたが見つからなかった時は、母さんは心労で倒れたんじゃ」
「母さんが……」
「それに、言い訳にしか過ぎんが、そこの
「じゃあ誰が、裕一朗を作ったって言うんだ?」
「分からん、ただ、最近『
「俺は『上弦の
裕一朗が呟いた。
「あり得るな、俺がお前を拾ったのが『煙の
「どうじゃセイ、もう一度戻ってこないか?母さんも心配している」
「悪いけどもう戻る気はない。俺は俺の生き方を手に入れたから」
「そうか、ではこれを渡しておく。戻りたくなったら何時でも戻っておいで」
そう言って、セイの手にカードキーを渡した。
遠くでサイレンの音が聞こえてきた。そして、それはどんどん近づいてくる
親子の対話も終わりが近づいてきた。
「セイ、追っ手が来たよ」
裕一朗がせっぱ詰まっていう
「さようなら、お父さん」
そう言って、 ばさり、と翼をはためかせハープ橋を後にする。
後にはひたすら虚空を見つめる、老人の姿があった。