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第7話

   「セイ……、まだ生き残っていたのか」

 その会話の間に、弱々しい老人の声が聞こえて来た。

 「あんたは……、イルラ博士! まだ生きていたのか!」

 憎々しげにセイがその名を呼んだ。

    「アルハ、早く行け、あんまりゆっくりしていると巡警や高警が来る」

 「分かりました。でもあなた方は……」

 「何とかなるから早く行け!」

 セイの怒声が響き渡る。

 「……、分かりました、幸運を」

 そう言い残して、アルハとライツを乗せた車は去っていった。

 「この爺さん知り合い?」

 訝しげな顔で、裕一朗が尋ねる

 「イルラ博士といって、生物クローン学の権威だ」

 「25年程前、『天使計画メサイアプロジェクト』と呼ばれるプロジェクトがあった。名前の通り、羽根を持ち超人的な運動能力を持つ兵士を作ろうとした」

 そこでふぅ、とイルラ博士は深呼吸をした。

 「計画は失敗じゃった。人工の子宮では根付かなかったのじゃ。そこでワシは……、自分の精子と妻の卵子を特殊処理した後、妻の子宮を使って孕ませた」

 「じゃぁ目の前にいるのは……」

 裕一朗が驚愕の表情を浮かべる

  「俺の本当の親だよ」

    何の感情も籠もっていない声で、セイが告げる。

 「何故俺のような化け物を作った、俺だけでなく裕一朗まで!」

 「ワシは一度も、お前を化け物と思ったことはない。10年前、家を飛び出していったとき、八方手を尽くしたが見つからなかった時は、母さんは心労で倒れたんじゃ」

 「母さんが……」

 「それに、言い訳にしか過ぎんが、そこの霊性エーテルタイプの天使メサイアの製造には、ワシは関わっておらんぞ」

 「じゃあ誰が、裕一朗を作ったって言うんだ?」

    「分からん、ただ、最近『天使計画メサイアプロジェクト』を一人で、復活させようとしている研究者がいてな。その研究者が彼を作ったのかもしれん」

   「俺は『上弦のファーストクォーター』で作られたのか」

  裕一朗が呟いた。

 「あり得るな、俺がお前を拾ったのが『煙のスモーキーシティ』のゴミ山だったしな。逃げてきたのなら、あそこにいても不思議はないな」

 「どうじゃセイ、もう一度戻ってこないか?母さんも心配している」

 「悪いけどもう戻る気はない。俺は俺の生き方を手に入れたから」

 「そうか、ではこれを渡しておく。戻りたくなったら何時でも戻っておいで」

 そう言って、セイの手にカードキーを渡した。

 遠くでサイレンの音が聞こえてきた。そして、それはどんどん近づいてくる

 親子の対話も終わりが近づいてきた。

 「セイ、追っ手が来たよ」

 裕一朗がせっぱ詰まっていう

 「さようなら、お父さん」

 そう言って、 ばさり、と翼をはためかせハープ橋を後にする。

 後にはひたすら虚空を見つめる、老人の姿があった。

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