目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第6話

 そう言ってセイは、着ていたツナギを脱ぎ出す。上半身を露出させると上の部分を腰の辺りで強く巻き、大刀を下げ直し、眼鏡も外す。

 ざわり、とセイの肩胛骨の辺りから何か生えてきた。翼だった。純白の美しい翼が生えそろうと、セイの髪と瞳にも変化が現れ始めた。赤い髪は漆黒の闇へと変わり、青い瞳もまた、黒い瞳へと変わって行く

 対する裕一朗も肩胛骨に神経を集中させる。ざわり、と背中から生えてきたのは金色の霊性エーテルの翼だった。そして、眼も瞳も金色へと変わって行く。

 「急ぐぞ」

 裕一朗にそう告げるとばさり、とハープ橋の頂点を目指して飛び始める。 

 「分かった」

 そう答えると、一呼吸置いて裕一朗が飛び始める。

 「まだ車は見えないか?」

 ハープ橋の頂上でセイが聞いた。

 「まだ見えないな……。おっとお出ましだ」

 そこにはゲートをくぐる四台の4脚戦車と、その中央に護られるかのように車が二台 。

 「恐らくアルハ達はあの車の中だ。車は一台は傷つけるなよ、脱出用に使うからな」

 「じゃあ行くぞ」

 「おう」

 その返事を合図に、二人はハープ橋から飛び降りた。

 そして、あっという間に4脚戦車のうちの二台を、急所をついて行動不能にし、素早い動きで、セイは車のタイヤを切り裂いた。

 「何者だ貴様ら!」

 車から降りてきた男達が、口々に言った。

 「男女の仲を引き裂こうなんて言う、悪い人たちを成敗するためにやってきた、天使メサイアですよ」

 「天使メサイアだと、ふざけんな」

 そのうちの一人がセイに向かって銃を発射した。セイは目にもとまらぬ速さで、大刀でそれを切り落とした。

 「な!」

 驚愕する男に向かって、セイは大刀を振り上げ胴を薙いだ。血は出なかったところを見ると、どうやらアンドロイドの類らしい。

 「裕一朗、お前は4脚戦車を頼む。俺はこいつらをやる」

 「了解」

 そう返事をすると、霊性エーテルの翼をはためかせ、次々と4脚戦車を屠って行く。乱戦のためか機銃などの武器が使えないのが、致命的なミスとなって、4脚戦車はさしたる労力もなく屠ることも出来た。念のため全ての4脚戦車のハンドルを開けて、中を開けてみたが、いずれも無人だった。

 次はセイだ。4人の男に囲まれて苦戦しているように見えたが、表情には余裕があり、この状況を楽しんでいるようにも見えた。

 ばさり、と闇の中で白い翼が動いた。男達が急いでその羽根目掛けて銃を撃つが、信じられない運動性能でそれら全てをかわして行く。

 「畜生、化けものめ」

 そう言いながら、弾倉を変えようとしていた男の後ろに、いつの間にかセイが立っていた。

 「化け物で悪かったな。化け物の気持ちも分からないから、『上弦のファーストクォーター』に取り込まれるんだ」

  そう言うとざしゅっ、と男の首を切り落とした。男はサイボーグだったらしく、壊れた血液筒からは、夥しい血が吹き出てきた。

 「アンタ達の力はこの程度かい?」

 挑発するように、顔に付いた血を舐めながらセイが言う。

 「くそ、舐めやがって」

 別の男が銃をナイフに持ち帰ろうとした瞬間、男の腹に、レーザーサーベルが突き刺さっていた。

 「がはげは……」

 口からどす黒い血を吐いて、男は絶命した。

 その背後には、裕一朗が立っていた。

 「余計なことを」

 「余計なことをしたくなる年頃なんだよ」

 「じゃぁ一人ずつな」

 「分かった」

 その言葉を合図に、セイと裕一朗は走り出した。

 裕一朗の相手は、パンパンと銃を撃って応戦するが、それら全てを裕一朗は霊性エーテル の翼で絡め取った。

 かちんかちん、と弾倉が空になったことを伝える音が鳴っても、男は恐怖のあまり弾倉を換えることが出来なかった。

 「弾、無くなったみたいだね」

 無表情に裕一朗が言った。

 「返してあげるよ、ほら」

 ひゅん、と霊性エーテルの翼に絡み付いた弾は、過たず男の頭へと撃ち込まれた。

 頭に撃ち込まれた男は即死だった。

 「つまんねーな、もっと俺を楽しませてくれよ 」

 男の頭を足蹴にしながら、裕一朗が不満げに言った。

 セイの方を見てみると、腕に刀を仕込んだ男とやり合っていた。腕は互角、いや、セイの方が上だ。どうやら遊んでいるらしい。

 「セイ、そろそろけりを付けないと、巡警か高警が来るかも知れないぞ!」

 「それもそうだな、あんた 、ちょっとは楽しめたよ」

 そして、にっこり笑ってこういった。

 「さようなら」

 その声と共に男の首が宙に舞った。

 「アルハ、ライツ、無事か!」

 車のドアを引きちぎりながら、裕一朗が呼びかける

 「その声は、裕一朗さん!」 

 外に出て、裕一朗の姿に驚いた。

 「あ、あの裕一朗さんですよね」

 金髪金眼で、黄金の翼まで生やしているのだから、驚くのも当然だ。

 「そうだよ」

 「後ろにいる人はセイさん……、ですか?」

 上半身裸で夥しい血を浴びて、真っ黒い髪と白い翼を生やしていたら、セイとは到底思わないだろう。

 「ああ、そうだ。ライツは?」

 セイが聞いた。 

 「なんとか生きてるよ」

 後部座席から弱々しい声が聞こえてきた。

 余程ひどい暴行を受けたのか、顔中傷だらけだった。

 傷だらけのライツを護衛の車に乗せる。

 「早く病院へ行かないと。アルハ、車の運転は大丈夫か」

 「はい、できます」

 「だったら、避難所シェルター へ急ぐんだ。下手をすると命に関わる」

 セイが言った。 


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?