そう言ってセイは、着ていたツナギを脱ぎ出す。上半身を露出させると上の部分を腰の辺りで強く巻き、大刀を下げ直し、眼鏡も外す。
ざわり、とセイの肩胛骨の辺りから何か生えてきた。翼だった。純白の美しい翼が生えそろうと、セイの髪と瞳にも変化が現れ始めた。赤い髪は漆黒の闇へと変わり、青い瞳もまた、黒い瞳へと変わって行く
対する裕一朗も肩胛骨に神経を集中させる。ざわり、と背中から生えてきたのは金色の
「急ぐぞ」
裕一朗にそう告げるとばさり、とハープ橋の頂点を目指して飛び始める。
「分かった」
そう答えると、一呼吸置いて裕一朗が飛び始める。
「まだ車は見えないか?」
ハープ橋の頂上でセイが聞いた。
「まだ見えないな……。おっとお出ましだ」
そこにはゲートをくぐる四台の4脚戦車と、その中央に護られるかのように車が二台 。
「恐らくアルハ達はあの車の中だ。車は一台は傷つけるなよ、脱出用に使うからな」
「じゃあ行くぞ」
「おう」
その返事を合図に、二人はハープ橋から飛び降りた。
そして、あっという間に4脚戦車のうちの二台を、急所をついて行動不能にし、素早い動きで、セイは車のタイヤを切り裂いた。
「何者だ貴様ら!」
車から降りてきた男達が、口々に言った。
「男女の仲を引き裂こうなんて言う、悪い人たちを成敗するためにやってきた、
「
そのうちの一人がセイに向かって銃を発射した。セイは目にもとまらぬ速さで、大刀でそれを切り落とした。
「な!」
驚愕する男に向かって、セイは大刀を振り上げ胴を薙いだ。血は出なかったところを見ると、どうやらアンドロイドの類らしい。
「裕一朗、お前は4脚戦車を頼む。俺はこいつらをやる」
「了解」
そう返事をすると、
次はセイだ。4人の男に囲まれて苦戦しているように見えたが、表情には余裕があり、この状況を楽しんでいるようにも見えた。
ばさり、と闇の中で白い翼が動いた。男達が急いでその羽根目掛けて銃を撃つが、信じられない運動性能でそれら全てをかわして行く。
「畜生、化けものめ」
そう言いながら、弾倉を変えようとしていた男の後ろに、いつの間にかセイが立っていた。
「化け物で悪かったな。化け物の気持ちも分からないから、『上弦の
そう言うとざしゅっ、と男の首を切り落とした。男はサイボーグだったらしく、壊れた血液筒からは、夥しい血が吹き出てきた。
「アンタ達の力はこの程度かい?」
挑発するように、顔に付いた血を舐めながらセイが言う。
「くそ、舐めやがって」
別の男が銃をナイフに持ち帰ろうとした瞬間、男の腹に、レーザーサーベルが突き刺さっていた。
「がはげは……」
口からどす黒い血を吐いて、男は絶命した。
その背後には、裕一朗が立っていた。
「余計なことを」
「余計なことをしたくなる年頃なんだよ」
「じゃぁ一人ずつな」
「分かった」
その言葉を合図に、セイと裕一朗は走り出した。
裕一朗の相手は、パンパンと銃を撃って応戦するが、それら全てを裕一朗は
かちんかちん、と弾倉が空になったことを伝える音が鳴っても、男は恐怖のあまり弾倉を換えることが出来なかった。
「弾、無くなったみたいだね」
無表情に裕一朗が言った。
「返してあげるよ、ほら」
ひゅん、と
頭に撃ち込まれた男は即死だった。
「つまんねーな、もっと俺を楽しませてくれよ 」
男の頭を足蹴にしながら、裕一朗が不満げに言った。
セイの方を見てみると、腕に刀を仕込んだ男とやり合っていた。腕は互角、いや、セイの方が上だ。どうやら遊んでいるらしい。
「セイ、そろそろけりを付けないと、巡警か高警が来るかも知れないぞ!」
「それもそうだな、あんた 、ちょっとは楽しめたよ」
そして、にっこり笑ってこういった。
「さようなら」
その声と共に男の首が宙に舞った。
「アルハ、ライツ、無事か!」
車のドアを引きちぎりながら、裕一朗が呼びかける
「その声は、裕一朗さん!」
外に出て、裕一朗の姿に驚いた。
「あ、あの裕一朗さんですよね」
金髪金眼で、黄金の翼まで生やしているのだから、驚くのも当然だ。
「そうだよ」
「後ろにいる人はセイさん……、ですか?」
上半身裸で夥しい血を浴びて、真っ黒い髪と白い翼を生やしていたら、セイとは到底思わないだろう。
「ああ、そうだ。ライツは?」
セイが聞いた。
「なんとか生きてるよ」
後部座席から弱々しい声が聞こえてきた。
余程ひどい暴行を受けたのか、顔中傷だらけだった。
傷だらけのライツを護衛の車に乗せる。
「早く病院へ行かないと。アルハ、車の運転は大丈夫か」
「はい、できます」
「だったら、
セイが言った。