その男が尋ねてきたのは、11時少し前くらいだった。
「邪魔するよ」
そう言って男が入ってきた。
年の頃はセイとあまり変わらない、25~6と言ったところか。黒い髪を刈り上げ濃いめの黒いサングラスを掛けていた。
「最新の4脚戦車の基盤が入ったと聞いたのだが」
「ああ、昨日入ったばかりですよ。ご覧になりますか」
「いや、それよりも」
男の声のトーンが低くなり、サングラスを外した。目の色も髪と一緒で黒い。
「アレは何処にいる?」
「アレ、とは?」
巡警かも知れない。そう思うと自ずと警戒した口調になる。
「アルハだ、彼女は何処にいる?」
「何者だ、あんた?」
「俺の名はライツ。アルハを逃がした張本人だ」
「あんたがライツか。ついてきな、アルハにあわせてやる」
ライツと名乗った男を連れて、アルハのいる場所へと連れて行き、アルハと引き合わせた。
「アルハ! いるか!」
そう言って見知らぬ男がセイと共に上がり込んできた。
「ライツ? ライツなの?」
男の姿を確認すると、アルハはセイと裕一朗の目を憚らずに抱き合った。
「ああ、アルハ。大丈夫だったか」
「ええ、親切な方に拾われて」
そう言って裕一朗とセイの方を見た。
「アルハを預かってくれてありがとう。なんのお礼も出来ないが……」
そうライツは口ごもる。
「礼なんていい。それよりも早くここを出た方が良い。巡警に見つかるとまずい。行き先はあるのか」
「ここから一番近い
「そうか、無事に付くことを祈ってる」
「元気でな」
裕一朗はそう言って、アルハの着替えの入った袋を渡した。
「さようなら、貴方達のことは忘れないわ」
袋を受け取り、うっすらと涙を浮かべて、アルハは言った。
「急ごうアルハ。追っ手が迫ってる。奴ら巡警だけでなく高警まで捜査に入れている」
「ええ、それじゃ、元気でね」
小さく手を振りながら、アルハはライツの乗ってきた車へと乗り込む。小型の『煙の
「行っちゃたな」
外で手を振りながら、少し寂しそうな声で裕一朗が呟いた。
「いずれは別れないといけなかったんだ」
慰めるようにセイが言う。
「さ、お昼にしようか」
「ウン」
珍しくセイの言うことを聞いて、店の中へと入って行く。
そして、朝の残りで昼食を済ませた。
大人しく本を読んでゴロゴロしてると、やがて睡魔が襲ってきた。その睡魔に抗うことなく裕一朗は眠りの淵へと落ちていった。
「起きろよ裕一朗。晩飯が出来たぞ」
言われて起きてみると、太陽が殆ど沈みかけていた。
「よく寝たなー」
大きく伸びをしながら起きあがった。
「そうそう、お前に朗報だ」
「なんだ朗報って」
「お前が漁ってきた新型の基板、全部売れたぞ」
「おお、そりゃスゴイ」
「だから夕飯、ちょっとリッチに天丼だ」
そう言って、両手に持った丼のうちの一個を、裕一朗の前に置く
「わぁい、エビが2尾も入ってる。いただきまーす」
「いただきます」
そう言って二人静かに食事をした。
殆ど食べ終わったところで、裕一朗がテレビを付けた。
暫くニュースを聞き流していたが、ある一つのニュースが、裕一朗の耳に飛び込んできた。
「たった今ニュースが入りました。本日、『翠麗塔』のプラグ候補を盗み出したとして、研究者の男が逮捕されました……」
テレビを食い入るように見ていると、映ったのは、紛れもないあの男、ライツだった。
「セイ! 大変だ」
「高警の方が一枚上手だったか」
険しい表情で、セイはテレビを見つめている。
「セイ、どうしよう」
縋るような眼で裕一朗はセイを見つめた。
「アルハたちを助けたいか?」
こくりと裕一朗が頷いた。
「例え他人を傷つけ、ひょっとすると殺すことになっても?」
もう一度裕一朗は頷いた。
「分かった。二人を助けに行こう」
「ありがとう、セイ!」
「今から支度して出れば、ハープ橋の辺りで合流できる。急いで用意をしろ」
「イエッサー!」
そう返事をすると、パジャマを脱ぎ、ツナギへと着替え、レーザーサーベルを身につける。いつもと違うところと言えば、漁り用のカバンがないことくらいだ。
セイも着ていた服を脱ぎ、ツナギへと着替える。そして、腰に大刀をぶら下げた。
着替え終わったら、二人ともガレージへと急ぐ
「行くぞ、車に乗れ」
裕一朗がドアを閉めると同時に、ギアを入れて踏み込む。
あまりの発進の加速に、裕一朗はフロントガラスに頭をぶつけた。
「いてて」
「今日はちょっと急いでいるからな。安全運転はナシだ」
幸い裏道ばかり走っていたので、対向車とは殆ど出会わなかった。
「ここがハープ橋の入り口だ」
セイが言った。
「思ったより警備が手薄だな」
裕一朗が言った。
車をハープ橋から少し離れたところにおいて、オペラグラスで様子を見る。
いるのは、
「どうする、やっちまうか」
「いや、ここでやると援軍が来る。今は大人しく、ハープ橋の上で待っていた方が良い」