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第5話

     その男が尋ねてきたのは、11時少し前くらいだった。

 「邪魔するよ」

 そう言って男が入ってきた。

 年の頃はセイとあまり変わらない、25~6と言ったところか。黒い髪を刈り上げ濃いめの黒いサングラスを掛けていた。

 「最新の4脚戦車の基盤が入ったと聞いたのだが」

 「ああ、昨日入ったばかりですよ。ご覧になりますか」

 「いや、それよりも」

 男の声のトーンが低くなり、サングラスを外した。目の色も髪と一緒で黒い。

 「アレは何処にいる?」

    「アレ、とは?」

 巡警かも知れない。そう思うと自ずと警戒した口調になる。

    「アルハだ、彼女は何処にいる?」

 「何者だ、あんた?」

 「俺の名はライツ。アルハを逃がした張本人だ」

    「あんたがライツか。ついてきな、アルハにあわせてやる」

 ライツと名乗った男を連れて、アルハのいる場所へと連れて行き、アルハと引き合わせた。

    「アルハ! いるか!」

     そう言って見知らぬ男がセイと共に上がり込んできた。

 「ライツ? ライツなの?」

 男の姿を確認すると、アルハはセイと裕一朗の目を憚らずに抱き合った。

 「ああ、アルハ。大丈夫だったか」  

 「ええ、親切な方に拾われて」

 そう言って裕一朗とセイの方を見た。

   「アルハを預かってくれてありがとう。なんのお礼も出来ないが……」

 そうライツは口ごもる。

 「礼なんていい。それよりも早くここを出た方が良い。巡警に見つかるとまずい。行き先はあるのか」

 「ここから一番近い避難所シェルターに行こうと思う。避難所シェルターなら『上弦のファーストクォーター』も手出しは出来ない」

    「そうか、無事に付くことを祈ってる」

    「元気でな」

   裕一朗はそう言って、アルハの着替えの入った袋を渡した。

 「さようなら、貴方達のことは忘れないわ」

  袋を受け取り、うっすらと涙を浮かべて、アルハは言った。

 「急ごうアルハ。追っ手が迫ってる。奴ら巡警だけでなく高警まで捜査に入れている」

 「ええ、それじゃ、元気でね」

 小さく手を振りながら、アルハはライツの乗ってきた車へと乗り込む。小型の『煙のスモーキィシティ』でもよく見かける車だ。恐らく目立たないようにこの車を手配したのだろう。

「行っちゃたな」

 外で手を振りながら、少し寂しそうな声で裕一朗が呟いた。

 「いずれは別れないといけなかったんだ」

 慰めるようにセイが言う。

 「さ、お昼にしようか」

 「ウン」

 珍しくセイの言うことを聞いて、店の中へと入って行く。

 そして、朝の残りで昼食を済ませた。

 大人しく本を読んでゴロゴロしてると、やがて睡魔が襲ってきた。その睡魔に抗うことなく裕一朗は眠りの淵へと落ちていった。


 「起きろよ裕一朗。晩飯が出来たぞ」

 言われて起きてみると、太陽が殆ど沈みかけていた。

 「よく寝たなー」

 大きく伸びをしながら起きあがった。

   「そうそう、お前に朗報だ」

 「なんだ朗報って」

 「お前が漁ってきた新型の基板、全部売れたぞ」

 「おお、そりゃスゴイ」

 「だから夕飯、ちょっとリッチに天丼だ」

 そう言って、両手に持った丼のうちの一個を、裕一朗の前に置く

 「わぁい、エビが2尾も入ってる。いただきまーす」

 「いただきます」

 そう言って二人静かに食事をした。

 殆ど食べ終わったところで、裕一朗がテレビを付けた。

 暫くニュースを聞き流していたが、ある一つのニュースが、裕一朗の耳に飛び込んできた。

 「たった今ニュースが入りました。本日、『翠麗塔』のプラグ候補を盗み出したとして、研究者の男が逮捕されました……」

 テレビを食い入るように見ていると、映ったのは、紛れもないあの男、ライツだった。

 「セイ! 大変だ」

 「高警の方が一枚上手だったか」 

 険しい表情で、セイはテレビを見つめている。

「セイ、どうしよう」

 縋るような眼で裕一朗はセイを見つめた。

 「アルハたちを助けたいか?」

 こくりと裕一朗が頷いた。

 「例え他人を傷つけ、ひょっとすると殺すことになっても?」

 もう一度裕一朗は頷いた。

 「分かった。二人を助けに行こう」

    「ありがとう、セイ!」

 「今から支度して出れば、ハープ橋の辺りで合流できる。急いで用意をしろ」

 「イエッサー!」

 そう返事をすると、パジャマを脱ぎ、ツナギへと着替え、レーザーサーベルを身につける。いつもと違うところと言えば、漁り用のカバンがないことくらいだ。

 セイも着ていた服を脱ぎ、ツナギへと着替える。そして、腰に大刀をぶら下げた。

 着替え終わったら、二人ともガレージへと急ぐ

 「行くぞ、車に乗れ」

 裕一朗がドアを閉めると同時に、ギアを入れて踏み込む。

 あまりの発進の加速に、裕一朗はフロントガラスに頭をぶつけた。

 「いてて」

 「今日はちょっと急いでいるからな。安全運転はナシだ」

 幸い裏道ばかり走っていたので、対向車とは殆ど出会わなかった。

 「ここがハープ橋の入り口だ」

 セイが言った。

 「思ったより警備が手薄だな」

 裕一朗が言った。

 車をハープ橋から少し離れたところにおいて、オペラグラスで様子を見る。

 いるのは、機甲服プロテクトアーマーに 身を包んだ二人の男だ。

 「どうする、やっちまうか」

 「いや、ここでやると援軍が来る。今は大人しく、ハープ橋の上で待っていた方が良い」


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