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第4話

  楽しそうな笑い声で、裕一朗は目を覚ました。

     眠い目をこすり、台所へと向かう。

 「お、起きたか」

 「あ、おはようございます」

 そこには楽しそうに料理する、セイとアルハの姿があった

 「朝っぱらから元気なことで」

    ふぁぁ、と大きな欠伸をしてから、ガリガリと髪の毛を引っ掻いた。

 「あ、裕一朗さん おはようございます」

 「もうすぐ朝飯出来るから、お前は布団畳んでちゃぶ台の用意してこい」

 「あいよ」

 四畳と六畳の部屋にひかれた布団を片付け、ちゃぶ台を出して座布団も出す。

 そこまで終わってから、すぐに朝食が運ばれてきた。

 「へぇ、コレ全部アルハとセイが作ったのか」

    机の上に並べられたのは、卵焼きにレンコンのキンピラ、炊き込み御飯に茄子の田楽、みそ汁はジャガイモとタマネギという、朝の食卓にしては豪勢なものだった。

 「有能な助手がいたものでね」

    電子ジャーを持ってきながら、嬉しそうにセイが言った。

  「無能な助手で悪かったな」

 憮然とした表情で裕一朗が答えた。

  「人には向き不向きがあるもんだ。ほら、すねてないで喰え、大黒柱。お前にはたんと稼いで貰わないとな」

 機嫌を直して貰おうと、こんもりと盛った炊き込み御飯を差しだした。

 裕一朗は相変わらず憮然とした表情をしていたが、一口頬張った途端、ぱっと表情が明るくなる。

 「おいしいよこれ」

 そう言って、ぱくぱくと一気に一膳分を食べ終えた。

 「おかわりあるぞ」

 「んじゃおかわり」

 そう言ってお茶碗をセイに差し出す。

 「他のも食べろよ。卵焼きとキンピラは、アルハが作ったものだ」

 そう言われて卵焼きにも手を出す。丁度よい塩加減で、辛めの卵焼きが好きな裕一朗の口に合った。

 キンピラも、一味のぴりり、とした味がよく効いていて、コレもまた炊き込み御飯に合う。

みそ汁を飲み干した後、やっと満足したのか、ごちそうさまの一言を言った。 

 「今日は家で、ゴロゴロしてなきゃいけないんだな」

 退屈そうに裕一朗が言った。

 「巡警に捕まると厄介だからな。今日一日は我慢しろ」

 そう言うと、どさり、と裕一朗の前に本の山を置く。

 「暇なときは読書に限る。取りあえずコレでも読んでおけ」

 「了解」

 「コレ本ですか?紙媒体の物を見るのは初めてです」

 「『上弦のファーストクォーター』には、紙の媒体ってないのか?」

 「はい。殆どは電子化されていて、読みたいものは端末に落とし込んで読むのです」

 「なんか味気ないなぁ」

「確かに味気ないですね」

 紙の感触を確かめるように、アルハはゆっくりとページをめくってゆく。

 「このような文化を捨ててしまうなんて、『上弦のファーストクォーター』はなんて愚かなんでしょう」

 「非効率的なんだからじゃないのか」

 「非効率だからって、切り捨ててきたから、あの街は人の痛みを知らず、全てを切り捨てて偽りの繁栄を謳歌しているのですわ」

     怒りの表情を浮かべながら、アルハが言った

 「……、よっぽど辛い目に遭ってきたんだな」

 裕一朗が同情の言葉を漏らした。

 「辛い目? 確かに、研究材料として色々なことをされましたが、私にはライツがいましたから……」

    「なな、ライツってどんな奴なんだ?」

 「ライツですか?雰囲気は取っつきにくいですが、話すといい人ですよ」

 微笑みを浮かべながら、アルハは言った。

 「なんか店の方が騒がしいな」

 寝っ転がって本を読みながら、裕一朗が言った。

 「アルハ! いるか!」

 そう言って、見知らぬ男がセイと共に上がり込んできた。

 「ライツ? ライツなの?」

 男の姿を確認すると、アルハは裕一朗とセイの目を憚らず、抱き合った。



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