楽しそうな笑い声で、裕一朗は目を覚ました。
眠い目をこすり、台所へと向かう。
「お、起きたか」
「あ、おはようございます」
そこには楽しそうに料理する、セイとアルハの姿があった
「朝っぱらから元気なことで」
ふぁぁ、と大きな欠伸をしてから、ガリガリと髪の毛を引っ掻いた。
「あ、裕一朗さん おはようございます」
「もうすぐ朝飯出来るから、お前は布団畳んでちゃぶ台の用意してこい」
「あいよ」
四畳と六畳の部屋にひかれた布団を片付け、ちゃぶ台を出して座布団も出す。
そこまで終わってから、すぐに朝食が運ばれてきた。
「へぇ、コレ全部アルハとセイが作ったのか」
机の上に並べられたのは、卵焼きにレンコンのキンピラ、炊き込み御飯に茄子の田楽、みそ汁はジャガイモとタマネギという、朝の食卓にしては豪勢なものだった。
「有能な助手がいたものでね」
電子ジャーを持ってきながら、嬉しそうにセイが言った。
「無能な助手で悪かったな」
憮然とした表情で裕一朗が答えた。
「人には向き不向きがあるもんだ。ほら、すねてないで喰え、大黒柱。お前にはたんと稼いで貰わないとな」
機嫌を直して貰おうと、こんもりと盛った炊き込み御飯を差しだした。
裕一朗は相変わらず憮然とした表情をしていたが、一口頬張った途端、ぱっと表情が明るくなる。
「おいしいよこれ」
そう言って、ぱくぱくと一気に一膳分を食べ終えた。
「おかわりあるぞ」
「んじゃおかわり」
そう言ってお茶碗をセイに差し出す。
「他のも食べろよ。卵焼きとキンピラは、アルハが作ったものだ」
そう言われて卵焼きにも手を出す。丁度よい塩加減で、辛めの卵焼きが好きな裕一朗の口に合った。
キンピラも、一味のぴりり、とした味がよく効いていて、コレもまた炊き込み御飯に合う。
みそ汁を飲み干した後、やっと満足したのか、ごちそうさまの一言を言った。
「今日は家で、ゴロゴロしてなきゃいけないんだな」
退屈そうに裕一朗が言った。
「巡警に捕まると厄介だからな。今日一日は我慢しろ」
そう言うと、どさり、と裕一朗の前に本の山を置く。
「暇なときは読書に限る。取りあえずコレでも読んでおけ」
「了解」
「コレ本ですか?紙媒体の物を見るのは初めてです」
「『上弦の
「はい。殆どは電子化されていて、読みたいものは端末に落とし込んで読むのです」
「なんか味気ないなぁ」
「確かに味気ないですね」
紙の感触を確かめるように、アルハはゆっくりとページをめくってゆく。
「このような文化を捨ててしまうなんて、『上弦の
「非効率的なんだからじゃないのか」
「非効率だからって、切り捨ててきたから、あの街は人の痛みを知らず、全てを切り捨てて偽りの繁栄を謳歌しているのですわ」
怒りの表情を浮かべながら、アルハが言った
「……、よっぽど辛い目に遭ってきたんだな」
裕一朗が同情の言葉を漏らした。
「辛い目? 確かに、研究材料として色々なことをされましたが、私にはライツがいましたから……」
「なな、ライツってどんな奴なんだ?」
「ライツですか?雰囲気は取っつきにくいですが、話すといい人ですよ」
微笑みを浮かべながら、アルハは言った。
「なんか店の方が騒がしいな」
寝っ転がって本を読みながら、裕一朗が言った。
「アルハ! いるか!」
そう言って、見知らぬ男がセイと共に上がり込んできた。
「ライツ? ライツなの?」
男の姿を確認すると、アルハは裕一朗とセイの目を憚らず、抱き合った。