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第3話 遅く起きた朝はコールドランチで*

 漆黒の天鵞絨が、いつの間にか淡い藍色に変わっていくのがぼやけた視界に入り込む。しっかりと閉じきる暇もなかったカーテンの隙間から、日の移り変わりを感じ、僕は堪らず声をあげた。


「も、ゃ、だ。壮太さ、ん。朝、になっちゃ、ぅ」


 声が、掠れている。昨晩、彼とベッドルームに閉じこもってからずっと愛されている。普段気恥ずかしくて、恋人らしからぬ態度しか取れない僕の珍しい誘いに壮太さんの興奮が振りきれたのだ。

 どんな態度の僕に対しても愛情深く受け入れてくれる彼だが、そんな彼でも時折我を通すことが一つある。


――スキンシップについてだ、特に夜の。


 異国の血が入っているらしい彼の一族は皆愛情深く、スキンシップ過多だと聞いていた。だから壮太さん自身もそうである……とも聞いていたし、ハグやキスなど日中のさりげない軽い触れ合いは恋人ではない時でも多い方だった。

 彼と付き合うまで、受け身というものを体験したことがなかったものだからが壮太さんが言うスキンシップ過多がどれくらいのものか分からなかったが恋人として接するようになって、彼のスキンシップもといい性欲に驚かされた。

だから極力自分から彼のスイッチを押す事は避けていたのだが、まぁ、まだ僕も若く、そう言う日だってあるわけで……でも、それにしても……である。


「ぁ、ぁっ、も、む、りっ、も゛、ぃけな、ぃぃっ」

「ふふ、まだ23歳だろう、巽。大丈夫、大丈夫」

「や、ぁああっ、だいじょぶ、じゃ、なぃ…んんっああ、あっ」


 腰に指が食い込むほど掴まれ、逃げようと這いずって見ても腕力で留められてしまう。男二人が寝ても余裕なキングサイズのベッドはギシギシと鳴り、押し出される僕の淫らな声と混ざりあった。

 体のサイズが大きい壮太さんのものもそれはもう立派で、はじめての時は受け入れるまで時間がかなりかかったけど、今は、すっかりと彼に慣らされている。そのせいで彼の形に出来上がった胎が勝手に良いように刺激を受け入れてしまう。


「んんっ、も、お尻イキ、やです……重い、イクの重いから、やだぁ」

「は、ぁっ……可愛いね、深くイくのやなの?」

「やだ、や、響く、から」

「どこに?」

「中、終わっても、ずっとじん、じんってしばらく、しちゃうんです、だから、も、ゃ」

「そっかぁ~ふふ、そっかぁ」


 嬉しそうな声色に、ひくっと頬が引き攣る。にこにこと食事前のように期待と楽しみに満ちた顔で笑っている壮太さんに汗が肌に滲む。要らないスイッチをまた押しぬいたかもしれないと腰に食い込む指をなんとか外そうと試みるが、その手はあっけなく彼の一回り大きいてにとられ、そのままベッドへと押し付けられた。


「僕に抱かれてなくても、お腹疼いちゃうってことだよね」

「ぁ、ぅ……そ、それ、はっ、ぁの」

「エッチな気分ずっと抱えてる巽のこと考えたら、堪らなくなっちゃった」

「あ゛っ、や、ま゛っで、やだ、乗っからないで。だめ、これ、だめなや゛づ~~!!!」



 のっしりと背に体重を掛けられて、自然と身体がベッドへと押し付けられていく。四つん這いについていた膝までも完全に伸びきり、自分よりも10センチも高い壮太さんの身体が完全に背に乗ってる、所謂寝バックの体勢を取られてしまった。

 逃げ場のないこの体位にジタバタと藻掻いてみるも、体躯差と削られた体力ではどうにもならない。濁音の嬌声を溢し、僕はチカチカと目の奥に散る花火に視界が白んでいくのを感じた。


「ダメじゃないでしょ?巽の大好きなところ全部可愛がってあげれる、大好きなやつじゃないか」

「ひぅっ、や、らっ、奥っ、奥来てるっ、あ゛っ、ぁっ、や゛、待って、乳首一緒は、まっ、ぁあっ!!!」


 両手を押さえつけていた手が、するりと脇の間から乳首へと回される。大きな手で乳輪事揉みしだきながら、ぬっちぬっちと腰を進められると長大な壮太さんの熱が一番奥の壁を叩く。

 いや、叩いているどころか最早すでに先端が入っている。


「巽の雄子宮、お口パクパクして僕のとディープキスしてくれてる。嬉しいな」

「そ、た、さんっ、ゃ、も、そこ入れないで」


 甘やかすような口調で言われ、思わずキュンとしてしまう。してしまうが……だめなとこなのはだめなとこだ。

 もうぐずぐずに抱かれ過ぎているのに、一番弱い所をこれ以上攻め立てられたらと思うと怖い。

 不安になって枕を手繰り寄せて、ぎゅうぎゅうと握りしめながら、気持ち良過ぎて滲んでしまう視界のまま、なんとか後を陣取る壮太さんを見てお願いする。


「んー……」

「立て、なくなるからっ。ごは、ん、作れなくなっちゃう」

「んんー!!!それは、ずるい。巽のご飯は僕のご褒美でもあるからなぁ」

「あ、ぁっ、腰、とめっ、んんっ」


 悩む素振りをしながらも、スローペースでピストンを繰り返されるし乳首を弄くる手も止まらない。切るような短い呼吸を枕に吸い込ませ、僕はぐらぐらと茹る頭で、どうしたら彼の強烈な熱量から抜け出せるかを必死に考えた。

 だが考える度に、良いとこを擦られ喘いでしまい思考が霧散して、もうずっとそんな感じで頭がふわふわとしてしまう。


「……たーつみ?ね、聞いてる?」

「ぁ?ぅ?っな、に」

「も、入っちゃうよ」

「ん、ぇ?ぇ――ッ?――っつ!?!?」


 ずっぶん。あまりにもゆくりと自然に納まったそれに声も上げられないまま思考回路が快感に支配されグルグルと回る。勝手に内股が震えて、漏らしたかのようにシーツが濡れた。


「ごめんね、だってあんまり可愛くお口開けちゃうから」


 入れちゃった!なんて、語尾にハートマークをつける28歳成人男性なんてちっとも、ちっとも可愛くない。可愛くないのに文句を言う余裕もない。勝手、勝手に何度もイってしまう。


「や゛、ぬぃて、イぐっ、イッでるからっ!!!!」

「うん、巽の絶頂痙攣雄子宮、とろとろでずっと入れてたいな」

「ひっ、やらぁっ、きもち、よすぎるの、怖いのにっ」

「よしよし、大丈夫。いつも言ってるでしょう?きもちいいって言葉にしちゃえば大丈夫だから」


 ごっちゅごっちゅっと腰骨が打ち当たる。痛みすら慣らされた体には良過ぎて、枕に涎をだらしなくと沁み込ませながら止まらない痙攣に息を詰める。

 ぬっと影が覆い、乳首を弄くっていた彼の右手が僕の顎を固定し上を向かされる。スパイダーキスをされ、口の中いっぱいに壮太さんの舌が捻じ込まれるといよいよダメにされる合図みたいなもので。嬌声も、吐息も全部彼の口の中に溶かしながら、壮太さんのねちねちとしたピストンに頭の中で何度も何度も快楽の火花が散り、思考回路が焼け落ちて、ただ「気持ちいい」という感情だけにされていく。

 ぎゅぅっ、ぎゅっと壮太さんのものを締め上げれば、彼のごつごつと隆起した血管とか雁とかにお腹の中の気持ち良いところを全部擦られていく。もう止まって欲しいのに、体が言う事を効かない。

 ようやっと唇を解放されるころには、もう僕の口から零れるのは「気持ちい」ただそれだけだった。




***


「う゛っ……腰っ、ぃたっ」


 最後に絶頂したころには、藍色だったそらはパステルブルーに変わっていた筈だったが、今、部屋の中はそれ以上に明るい。何時だろうと気だるい体を起こそうとして、腰にビキリと鈍痛が走る。思わず膝を抱えて、頭を膝に預けて覚醒しきらない頭で部屋を見渡した。

 隣に壮太さんが寝ている様子はない。部屋の中は古びた時計の張りの音だけが静かに響いていた。


「も、お昼?」


 酷く掠れた声に喉を摩る。昨晩はえらい目に遭った。興奮しきった壮太さんは、普段のぽやぽやとした28歳児ではなくて、野獣もいいところだ。それも大変に面倒くさい。仕事モードのような、こう、囁く声も妙にいやらしくて。

 何より、普段「和戸くん」と苗字でのほほんと呼んでくる癖に甘い声で下の名前を呼び捨てにしてくるから質が悪い。思い出して、じんっと耳が痺れて思わず呻いた。


「和戸くん、起きてた?」


 寝室のドアが開き、いつものゆるんだ様子の壮太さんが少しだけ申し訳なさそうな顔をして此方に近づいてくる。いつのまにか彼はすっかりと身支度が整えられているが、いつものスーツではなくラフなVネックの白いロンTにグレーのチノパンを履いていた。髪の毛もセットされていないから、今日は外出の予定はないらしい。いや、ないからこうなったのだった。


「あの、えっと、ご、ごめんね?」


 なにも答えない僕にさすがにやり過ぎたと反省でもしたのか眉をしゅんっと八の字にして大きな体を縮こまらせている。昨晩の様子とのギャップに僕はもうどうしようもなくおかしくなって、気だるい手をのばしセットされてない柔らかな髪をくしゃくしゃと撫でた。


「起きたらいないから、拗ねただけ」

「――っ、も、可愛い事言わないで、今、折角自制モード入ってるから」

「半永久的に入ってもいいですけど」

「それは、反動で君が大変だと思うよ?忘れた?」


 急に夜を引きずった声を出されて頬が引き攣る。仕事の関係で暫くスキンシップ出来なかった彼の反動ときたら思い出すのもあれなので語らないが、まぁ、昨晩以上の悲劇が僕を襲ったのを思い出し、僕は乾いた笑いを溢す。

 そんな僕の手をとって、指先にキスをしながら壮太さんが甘ったるく微笑んだ。


「ランチ、出来てるよ」


――連れて行ってもいいかな?僕の愛しいワトソン君


 なんて恭しく言うから僕は少しだけ唇を尖らせて「ワトソンは余計です」と彼に抱っこをねだった。

 23歳にもなって……とも思わなくもないが、歩けないのだからしかたない。

僕は気を失っている間に彼が着せてくれたらしいバスローブのまま彼の腕の中に納まり、食卓へと向かった。息一つ乱さず僕を横抱きにして歩ける腕力に苦笑しながら席につけば、テーブルにはアカシアの木でつくられたカッティングボードの上に、数種類のチーズ。その横には大きな木製のボウルに葡萄や林檎などのフルーツ。

 それから青い花の絵柄が描かれたオパール皿にはアボカド入りのシュリンプサンドとローストビーフサンド、それからエッグサンドが綺麗に並べられていた。


「わ、美味しそう」

「和戸くんのサンドイッチには劣るかもだけど、鵬鵡ほうむメイドだよ」

「ふふ、おやじギャク?」

「ち、ちが、鵬鵡家の直伝レシピってことだよぉ」


 ひんっと情けない声を出す姿にクスクスと笑いながら、空色のラウンドタイプのランチョンマットの上に置かれた取り皿に取り敢えずローストビーフのサンドイッチをのせる。食欲をそそる美しい薔薇色にお腹がくぅっと音を立てた。


「それから、こちらをどうぞ。お坊ちゃま」


 なんて、執事よろしくサーブされたのは淹れ立てのミルクティー。ふわりと甘い花の香りは、たっぷりとハチミツが入っている証拠。


「喉を労るなら加減してほしいものですねー」


 なんて意地悪を言ってやれば、向かいに座った壮太さんがしゅんと肩をすぼめながら「だって、和戸くんがえっちなのがいけないと思うんだ」なんて反省の色がない事を言うから、僕は気だるい脚で頑張って、彼の脛を蹴ってやった。

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