目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第32話

 翌日。八月十日。

 昨日までの雨はもう止んでいた。

 今日はみんなで加世子の死体をどこに隠すか、その案を出し合う日だ。

 朝起きてあたしが真っ先にしたことは、枕の下に隠しておいた果物ナイフを鞄の中に入れることだ。

 寝ている間に襲われるわけなんてないと思いながらも、田舎の一軒家は普通鍵なんて閉めない。窓だって網戸だ。入ろうと思えばいくらでも入れた。

 だから暑かったけど窓を閉めて寝た。そのせいで寝汗をかき、下着まで湿っていた。

「…………気持ち悪い」

 あたしはそう呟くとシャワーを浴びにお風呂場へと向かった。

 脱衣所で裸になると鏡にあたしの姿が映った。ひどい顔だ。明らかに疲れてる。体も少し痩せたかも。

 体重計に乗ってみると二キロも減っていた。ダイエットに成功したけど、まったく嬉しくない。体は正直だ。いくら取り繕ってもつらさを隠せない。

 こんな状況がこれから先も続く。そう思うと命の危機を感じた。

 このままじゃいつか耐えられなくなって死んじゃう。

 でもどうすればいいの?

 それが分からないままあたしはシャワーを浴びた。

 頭から温かいお湯を浴び、ぼーっとしながら下を見つめる。

 日焼けしたから水着の跡がくっきりと残っていた。海に行くためにムダ毛の処理をがんばったから足はつるつるだ。見栄えはいいけどカミソリの使い方が下手なのか肌が荒れてかゆかった。

 海……、楽しかったな……。また来年も行きたいな……。

 大学にも行きたいし、彼氏だってほしいし、将来は結婚もしたい。子供もほしい。二人くらいかな。お金持ちじゃなくていいから、優しい旦那さんと可愛い子供達に囲まれて、のんびりと暮らすんだ。

 そのうち孫とかできて、あたしはお婆ちゃんになる。その時はお茶を飲みながら友達とお話したり、畑を耕したりもしたい。

 贅沢はないけど、幸せな一生。それが送れたら十分だ。

 その全てが叶わないと思うと涙が出てきた。

 悲しい。寂しい。怖い。

 なのに誰にも相談できない。誰かが案を出してくれるわけでもなければ、答えを教えてくれるわけじゃない。

 みんなと一緒のことをやっていればなんとかなる。もしかしたらそんな時期はとうの昔に終わっていたのかもしれない。

 いや、違う。そんなことは今まで一度だってなかったんだ。

 なのにあると思って流れに乗ってきた。その流れは自分で考える力を付けるための流れで、誰かに頼って生きていくための流れじゃないのに。

 それでもあたしは誰かについていくことをやめなかった。

 だってそっちの方が楽だから。考えないですむから。失敗も人のせいにできるから。

 今、ようやく理解した。

 あたしがどうにかするしかないんだ。これはあたしの問題で、あたしの人生なんだから。

 蛇口を捻ってシャワーを止めると上を向いた。

 死にたくない。それが一番最悪だ。どうにかして死ぬのだけは回避しないと。

 そのためには知らないといけない。三人が共謀してるのか、そうじゃないのか。

 犯人の数が分かれば対策が取れる。仲間ができるかもしれないし、それが無理ならまた動き方が変わってくるはずだ。

 今は少しでも知るんだ。そのためにはもっと必死になって動かないと。

 でないと死ぬ。死ぬのはいやだ。

「死ぬのはいやだ」

 言葉にすると自分がやりたいことがはっきりした。

 もうどうなってもいい。

 あたしが生きられるのならそれでよかった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?