図書室で勉強してる間も三人のことが気になって勉強どころじゃなかった。
黙ってぼーっとしているとうーみぃが心配そうに笑いかけた。
「愛花。大丈夫か?」
「え? ああ……。うん……。大丈夫だよ」
あたしはなんとか笑顔を作った。
気のない返事をするあたしを見て三人は顔を見合わせる。そしてなにか分かったように哀れむような笑顔を浮かべる。うーみぃは肩をすくめた。
「あんまり思い詰めないでいいんだぞ?」
「思い詰める?」
ドキリとした。まさかあたしが調べていたことがバレてる?
緊張するあたしを見てうーみぃは首を傾げた。
「加世子のことで悩んでるんじゃないのか?」
「あ……」
そうだった。あたしが本来考えるべきは加世子の死体をどこに隠すかだ。疲れているのを見たら誰だって考えすぎだと思うだろう。
たしかにそれも憂鬱だった。だけど今あたしを悩ませてるのは加世子じゃない。
目の前にいる三人の親友だ。どんなことがあっても信じられると思ってたのに、今じゃこの世の誰よりも信じられない。本当は信じたい。だからこそ苦しかった。
あたしはなんとか笑顔を作った。
「うん……。ありがと……。全然場所が思いつかなくて……」
すると琴美がうんうんと頷いた。
「分かる分かる。どこも怖くなっちゃうよね。一長一短って感じ」
菜子ちゃんも同意する。
「ねえ。わたしなんて爆破しようとまで考えちゃったもん」
それを聞いてうーみぃは口角をひくつかせた。
「菜子は発想豊かだな……。なるべく派手じゃないので頼む。また調べてみたんだが、有力なのは私有林だと思う。県や市が勝手に入れないからな。今はこの辺りで比較的手が入ってない場所を模索中だ。もし思いつかなかったらそういった場所を探してほしい」
あたしは「う、うん……」と頷いた。
やっぱりうーみぃは怪しい。あたしが思いつかない場所をどんどん見つけてくる。どうしても計画を成功したいんだ。殺人犯として捕まれば朧月は本当の本当に終わりだから。
琴美は優しく笑った。
「愛花も気軽にいこうよ。昨日家にあったミステリー小説を読んだんだけどさ。死体って二、三十センチも埋めれば匂いがしないんだって。警察犬も死体の匂いは覚えてないからきちんと埋めれば見つかる確率はほとんどゼロらしいし」
「へえ、じゃあ大丈夫だね……」
ホッとするような、ゾッとするような気分だ。
琴美の言ってることが本当なら、あたしは完全犯罪に加担させられてるんだから。
菜子ちゃんも安心して微笑む。
「そう言えばニュースでやってたんだけど、一年間で行方不明になる人って八万人以上もいるらしいよ。その中でも十代が一番多いんだって。だからきっといなくなったくらいじゃ警察は動かないんじゃないかなぁ。それに加世子ちゃんも親と仲良くないから彼氏の家に住んでるって言ってたもんね。普通疑うなら真っ先に彼氏になるんじゃない? なんか悪い人みたいだし」
「そう……だね……」
のほほんと言ってるけど、内容は全然笑えなかった。
要は真犯人の罪を加世子の彼氏になすりつけようってことだ。
みんながみんな悪人に見える。心の底では馬鹿なあたしを笑ってる気がした。
冷や汗が流れてあたしはハッとした。
不自然に振る舞っちゃダメだ。もし三人が共犯ならそれこそ気づいた瞬間殺されちゃう。
できるだけ普通のあたしを演じなきゃ。でも普通のあたしってどんなのだっけ?
意識すると息を吸うのさえぎこちなくなった。瞬きも増える。急に喉が渇いて、机の下で手が震えた。
それでもあたしは笑顔を作った。友達の前で命を賭けて笑ったんだ。
決死の笑顔が功を奏したのか、それから先は変に気を遣われることはなかった。
だとしてもみんなといる限りあたしが心安まることは一瞬たりともなかった。