八月九日。朝。今日は雨だった。
自転車通学の朝は最悪だ。あたしはカッパを着てコンビニまで向かった。
コンビニで待ってるといつもより少し遅めにみんなが来た。家が割と近い菜子ちゃんは傘で、あとの二人はカッパを来てロードバイクと原付に乗ってきた。
「あ~もう~。マジでやだよね~。マンホールの上とか滑るんだけどさ。それを無理に避けようとするのも怖いんだよ」
琴美がため息をつきながら屋根の下でヘルメットを取る。
今日は家にいたんだろうか? それとも街で泊まったとか? 温泉街の近くには道の駅がある。あそこなら休憩所があるから夜を過ごせるはずだ。
普段なら絶対に考えないことを考えてる自分がイヤだった。
あたしはとぼとぼとコンビニの中を歩いた。適当にお昼ごはんを選んでレジに向かうと菜子ちゃんが先に会計をしていた。
菜子ちゃんは傘を持ちながら鞄から財布を出すのに苦労している。
後ろに並んでいたあたしは手を伸ばした。
「持つよ」
「あ。ありがとう」
菜子ちゃんはニコッとはにかんで傘を渡した。あたしはなんとか笑って受け取ったけど、猜疑心は深まるばかりだ。
もしかして菜子ちゃんにも秘密があるのかな? だとしたらやだな。
そう思っていたあたしはギョッとした。
菜子ちゃんの可愛らしいピンクの財布に一万円札が何枚も入っている。
少なく見積もっても十万円はあった。菜子ちゃんの家ってそんなにお金持ちだっけ?
いや、普通くらいなはずだ。子供に甘いイメージはあるけど、さすがにお小遣いが多すぎる。女子高生が持ってる額じゃない。
そこまで考えてあたしはハッとした。そう言えば加世子の死体に財布ってあったけ?
もし菜子ちゃんが犯人だとしたら財布からお金を抜いてもおかしくない。
そんな……。まさか菜子ちゃんまで……。
「愛花ちゃん? どうしたの?」
名前を呼ばれて顔を上げると心配そうな菜子ちゃんの顔があった。あたしは慌てて傘を返した。
「ご、ごめん。ちょっと寝不足で……」
「そうなんだ。大丈夫?」
「うん。あ。コーヒーも買っとこ」
あたしはなんとか笑顔を作り、レジのそばにあった缶コーヒーを手に取った。
菜子ちゃんは不思議そうにしながら小さく手を振る。
「じゃあ先に出てるね」
「うん」
あたしも合わせて手を振る。だけどモヤモヤは消えない。それどころかどんどん大きくなっていく。
あのお金、どうしたんだろう?
……まさか加世子と一緒にクスリを売ってたとか? それで揉めて殺した……。
十分あり得そうな可能性が浮かぶと体温が下がっていくのを感じた。
あたしは外に出た菜子ちゃんを見つめた。琴美、うーみぃと笑いながら話してる。
いつも通りの三人だった。なのに、今はそう見えない。
ずっと一緒にいたのに、あたしの知らない人達がそこにいた。
あたしだけがこの世界にぽつんと取り残された気がする。
なんだか無性に泣きたくなった。