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第26話

 温泉から出るとうーみぃと会ってくると言ってお母さんから離れた。お母さんもうーみぃのお母さんにお礼を言ってくるらしい。

 あんまり時間がない。誰か知り合いはいないかな?

 そう思って歩いていると知ってる顔を見つけた。

 去年うちの高校を卒業して朧月で仲居さんとして働き出したモリ先輩だ。背が高くて格好いい女性だった。お化粧もしていて髪型も大人っぽくなっている。

 あたしは職場の人と雑談しているモリ先輩に話しかけた。

「先輩。お久しぶりです」

「ん? おー。愛花じゃん。久しぶり。どしたの?」

「家族で日帰り温泉です。うーみぃのお母さんから割引券もらったんで」

「そうなんだ。ここの温泉いいからねえ。就職する前にこの辺りのに全部入ったけど、ここが一番だから決めたんだ。従業員はタダだからね。もうお肌すべすべだよ」

 モリ先輩のお肌は確かに綺麗だった。でも今知りたいのはそんなことじゃない。

「えっと、そのですね。うーみぃのことで聞きたいことがあるんですけど」

「あ。呼んでこいってこと?」

「いや、違います。その、八月三日なんですけど。働いてる間にうーみぃがどこかにいなくなったとかないですか?」

 あたしの質問にモリ先輩は首を傾げた。

「えー。どうだったかな? 知ってる?」

 モリ先輩は隣にいた同僚に尋ねた。こちらも同い年くらいの綺麗なお姉さんだ。同僚の人はう~んと唸ってから「あ」と声を出した。

「三日だよね? あったあった。女将さんが海ちゃん探してたんだけどいなくてさ。しばらくしてからひょっこり顔出してたよ」

 意外な情報にあたしは前傾姿勢になる。

「そ、それって何時くらいでした?」

「えっとぉ。海ちゃんが仕事の日はいつも五時半くらいに帰ってきて、それから出るんだよね。だからあの日もそれくらいにはいたと思う。いなくなったのはそれから一時間後くらいかな。そっからさらに一時間くらいはいなかったはず」

 つまりうーみぃがいなかったのは六時半から七時半の間だ。その時間ならまだ日はあるし、一時間あれば廃工場から行って戻ってもお釣りがくる。

 犯行は十分に可能だった。あたしは思わずつばを飲み込んだ。

「そ、そうなんですか……」

「でもなんで?」とモリ先輩が聞いた。

「えっとその……。あの日用事があるって聞いてたんでなんでかなーと思っただけです」

 苦し紛れだった。そういう言い訳は用意してないのがあたしの馬鹿なところだ。

 それでもモリ先輩は大して興味なさそうだった。

「ふうん。そうなんだ」

「あの、ですね。できたら今の話うーみぃには内緒にしてほしいんですけど」

 二人は不思議そうに顔を見合わせた。

「まあ……」

「いいけど」

 あたしは「ありがとうございます」と頭を下げた。

 そこでちょうどお母さんに呼ばれ、あたしは「じゃあ」と会釈してラウンジに戻った。

 さっきまでポカポカしていたのに今は心なし肌寒い。

 知りたくないことを知ってしまった感覚だ。

 うーみぃは嘘をついていた。それが分かると胸がドキドキする。

 帰りの車の中であたしは遠ざかっていく朧月をぼんやりと眺めていた。

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