いつも通り自転車でコンビニに向かうともう三人が待っていた。
「ご、ごめん。朝ご飯食べすぎちゃった」
あたしがそう言うとみんなが呆れる。
「まったく、愛花が遅刻する時はいつもそうだな」うーみぃは腕を組んだ。
「どうせそうじゃないかって話してたとこよ」琴美は肩をすくめる。
「朝からよくそんなに食べられるよね」菜子ちゃんは呆れ笑いを浮かべていた。
あたしは「あはは……」と苦笑いしながらこっそり安心した。
当たり前だけどみんないつも通りだ。あたしが疑ってるなんて考えてすらいない。
あたし達はコンビニで買い物し終わると話しながら学校に向かった。
「ねえ。どこにするか決めた?」
琴美があたし達に尋ねる。あたしは「ううん。まだ」とかぶりを振った。
うーみぃと菜子ちゃんもまだ決めかねてるみたいだ。
「私もだ。候補はいくつか浮かぶんだが、同時に問題もある場所が多くてな」
「難しいよね。場所はいいけど遠かったり、近くても道路を歩かないとダメだったりするから。猫車とか借りられないかな?」
猫車というのは農家がよく使う一輪の手押し車のことだ。
「猫車ならうちの旅館にあるが、あれを廃工場まで持って行くのはな……。深夜に猫車を持った若い女が歩いていたら怪しすぎるぞ」
「あー、たしかにそうだね」
みんな真剣に考えてる。でもそれは自分のためかもしれない。
死体が警察に見つかったら多分自殺じゃないってバレるだろう。よく知らないけど検死とかされたら誤魔化しきれないはずだ。
そうなると話はまったく違ってくる。殺人事件で捕まればどうなるか分からない。あたし達は一応未成年だけどもう十八歳だ。きっと罰則も重いだろう。
それこそ破滅だ。たとえ刑務所から出られても殺人犯となんて誰も仲良くしない。
そう考えるとたしかに犯人があたし達を利用するのも分かる。あたしも人生が終わると分かっていたらどんな手でも使うと思う。
でもだからって親友を利用していいかと言えばやっぱりダメなんだ。お願いなら分かる。でも利用はよくない。それをしたら友情じゃなくなる。
あたしは警戒しながらも三人の話を聞いていた。琴美が提案する。
「それなんだけどさ。車の免許を取りに行くのはどう?」
うーみぃは難しい顔で首を傾げた。
「うむ。それは私も考えた。だがどれだけ急いでも一ヶ月はかかるぞ」
「それは免許を取るのにでしょ? 車を運転できるようになるまでだったらもっと早いんじゃない?」
「無免許運転するということか……。まあたしかに。夜の田舎道を警察が取り締まるなんてほとんどないからな。だがうちの車はダメだ。全てに朧月の名前が入ってる」
「うちはどうだろ。親が家に帰ってくる時間がバラバラなんだよね。菜子ちゃんは?」
菜子ちゃんは小さな顎に人差し指を当てた。
「う~ん。うちはお母さんが夜勤だし、お父さんはバスだから」
三人とも無理そうということであたしに白羽の矢が立った。慌てて首を横に振る。
「うち? 無理無理無理! そんなのバレたらお母さんに殺されるって。いや本当に比喩じゃなくて」
必死に断るあたしにうーみぃは呆れた。
「もうそういう次元の話じゃないと思うがな。だがイヤイヤやらせるのはダメだ。仕方ない。車は諦めよう」
あたしはホッとした。やっぱりうーみぃは根っこが優しい。でもそれだってあたしを利用するためなのかもしれない。そう思うと悲しくなる。
そもそもうーみぃは怪しい。色んなことを知りすぎてる。どうみても一番案を出してるのがうーみぃだ。
もしあたしが加世子を殺したのなら必死になって隠し場所を考える。だって見つかったら何十年も刑務所に入らないといけないからだ。
あたしが後ろで怪しんでいると琴美が小さく嘆息した。
「じゃあ行ける場所は限られてるね。これは本格的に近場で考えないと」
琴美はう~んと唸った。
そう言えば琴美も怪しい。最初から検査キットのことを諦めていたし。もしかしたら加世子はクスリで殺されたって分かっていたからかもしれない。
菜子ちゃんは空を見上げてぽつりと呟いた。
「いっそのこと、工場ごと燃やしちゃうとかどうかな?」
相変わらず可愛い顔してすごいことを言う。
そう言えば菜子ちゃんも怪しい。二人と違って菜子ちゃんだけが犯行時刻のアリバイがない。喫茶店に行ってたとは言ってるけど、そんなのいくらでも嘘をつける。それに一番初めに埋めようと提案したのも菜子ちゃんだ。
菜子ちゃんの提案にうーみぃが答えた。
「火事になれば確実に死体が発見されるし、よっぽどのことがない限り火事の前に死んでいたことがバレるだろう。それに放火は重罪だ。状況証拠で殺人罪になった時、最悪死刑になるぞ」
「あ~……。じゃあやめとこう」
あまりの話に菜子ちゃんは苦笑いした。
怪しい。みんな怪しい。
はっ。もしかして三人は協力していたりする? あたしはそれに利用されてるんじゃ?
あたしだったら言われたことに大した反論もせず、流れに身を任せてついてくる。死体を隠すのに人手はいくらあっても困らない。多ければ多いほどできることが増えるはずだ。
いや、三人じゃなくても二人が共犯だっていう可能性もある。その場合は誰と誰なんだろう?
だめだ。分からない。もう誰を信じたらいいの……? お願いだから嘘だと言ってよ。
まさしく疑心暗鬼だ。疑う気持ちを持った瞬間に大好きな親友が鬼に見える。
学校に続く坂を登りながらあたしは泣きそうになっていた。
この状態から抜け出すには一つしかない。
三人のアリバイが本当かどうか確かめるんだ。