あたしはなんとか隣の部屋まで戻り、近くにあった台座に座った。
放心状態がしばらく続くと鈍い頭がゆっくりと動き出す。
あたしは正面の扉を見つめた。
そもそもおかしかった。工場に入るにはあの扉を通るしかない。またはあたしみたいにガラス窓を破るかだ。でも窓は割れてはいたけど人が通れるほどではなかった。
つまり加世子は扉から入ったんだ。でもそれは一人ではむりだ。女の子の力じゃ重くて開かない。閉める時は押せばなんとかなるけど、開けるのは不可能だ。
あたし達がここに来た時扉は閉まっていた。だけど加世子は中にいる。それはつまり開けて、閉めたってことだ。
いくら廃工場だからって扉が開けっぱなしにされてることはないだろうし、ずっと前に来た時もきっちり閉めて帰った。でないと誰か来たことが分かるからだ。
一人で開けられない扉を開けたってことは、加世子は誰かとここに来たんだ。
そしてその誰かに殺された。
背筋が凍った。これは事故でも自殺でもなく、殺人なんだ。
でも一体誰が? ここを知ってるのはあたし達くらいなはずだ。
加世子だって自分がクスリを使用するために使っている場所を誰かにべらべら話したりしないだろう。
一緒に来るとしたら尚更顔見知りとしか来ないはずだ。
あたしの中で二つの可能性が浮かんだ。
一つは加世子が知らない誰かとここに来たってことだ。
そしてもう一つは加世子があたし達の誰かとここに来たってことだった。
前者の可能性は低い。地元を離れてからはあたし達としか会ってないと加世子自身が言ってたからだ。
となると残る可能性は……。
ゾッとした。もしやと思った時からこれだけは考えたくなかったのに。
悲しくなって涙が出る。
でももしそうだとしたら三人の中の誰かが加世子を殺し、その死体を隠すための手伝いをあたし達にさせてるってことだ。
なんでそんなこと……。ひどい……。ひどすぎるよ……。
悲しくて、寂しくて、涙が止まらない。なによりあたしは怒っていた。
これはどんなことがあっても友達にしちゃダメなことだ。自分の犯罪を知らせずに利用するなんて間違ってるよ。
しばらくすると涙が止まり、あたしは顔を上げた。
窓の外には雑木林の隙間から綺麗なお月様が見える。
月の光に照らされていると一つの思いが芽生えてきた。
決めた。あの日、誰が加世子を殺したのかを突き止めよう。
でないともう、あたしは誰も信じられなくなる。
やるべきことが見つかると、心が少し熱を持った。