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第19話

 夜。あたしは自分の部屋でみんなから渡された宿題に頭を痛めていた。

 なんせ死体の隠し場所だ。それだけじゃなくてそこまでの運搬方法も考えないといけない。宿題は嫌いだけど、ここまでやりたくないの初めてだ。

 一体どこに隠すのが正解なんだろう?

 とりあえず遠い場所は無理だ。死体を四人で運ぶとしても工場から歩いていける場所に限られる。

 そうなるとやっぱり近くの雑木林かな。あそこなら移動する手間も最低限で済むし、人にも見つかりにくい。問題があるとしたら野犬がいるから穴が浅いと掘り返される可能性があるのと、あそこにある木がスギってことだ。

 林業の人がいつあそこに入るかは分からないけど、変な場所があったら絶対に気づく。掘った穴をいくら埋めても足場はしっかりとは固まらない。落ち葉があれば隠されるけど、今は夏だ。

 う~ん。雑木林は危ない気がするなぁ。道路からも近いし。それならやっぱり蛙池の方かな。でもあそこまでは山道を一キロ以上歩かないといけない。

 そう言えば加世子を運ぶのってどうするんだろう? 軍手で直接持つとか? 

 むりむり。そんなの絶対にいやだ。じゃあなにかに包むのかな。包むのなんてあったっけ? ブルーシートとか? でも勝手に持ち出してなくしたら気づかれるだろうし、お店で買ったらいざって時に疑われるかもしれない。

 もう着ない服とかなら捨てたって言えば大丈夫かな? でもその場合運んだあとにちゃんと処分しないとダメか。一斗缶も持っていってその場で焼いたら問題ないかな。

 そこまで考えてあたしは一人ため息をついた。

 いやだ。考えたくない。なんで必死に犯罪がバレないように考えてるんだろう。

 冷静に考えれば考えるほど、どこかでバレてしまう気がする。いくら色んな案を出しても現実は全く予想外のことが起きて努力が水の泡になるんじゃ。

 そんなことならもう諦めて警察に言った方がいいんだろうに。起きるか分からない未来のためにやらなくてもいいことを必死になっている気がする。

 でもあたし達まで噂になる確率と、加世子の死体を隠して見つからない確率を考えると、やっぱり後者の方が低いんだ。それが分かってるからみんな必死になってる。

 あたしも分かってるつもりだけど、それでもどこか自分には関係ないんじゃないかと思ってるところがあった。

 きっと誰かがやってくれる。きっと誰かが解決してくれる。だからあたしはなにもせず、大事なことはなにも言わない。

 そうやって生きてきたツケを今になって払わされている気がした。

 そうは言ってもいきなり自分は変えられない。弱くてダメなあたしを簡単に変えられるならとっくにやってる。

 あたしは一人落ち込みながら気になった爪の手入れをしていた。

 これも高校生になってから続けてる。ネイルは校則違反だけだ。だから少しでも綺麗にするために琴美に教わった。ネットで買ったネイルファイルで磨いていく。

 気づけばすぐに現実逃避だ。やらないといけないことを後回しにするのはあたしの得意技だった。

 だけどそれも仕方ない。未だに何の学部を受けるかすら決まってないあたしに死体の隠し場所を決めろと言う方が不条理だ。

 だからあたしは爪を磨いた。のんびりと磨いた。

 しばらくすると左の爪は完璧にできた。綺麗になると嬉しくなる。

 さあ次だ。右の爪は難しい。利き手じゃない方で削るからいつも出来に違いができる。

 それでも前よりは随分上手くなった。そう言えばうーみぃもやってほしいって言ってたなあ。なんか最近どんどんかわいくなっていくんだよね。琴美も菜子ちゃんもお洒落だし、持ってる小物とかにも気を遣ってる。

 あたしも頑張って女子力あげないと大学デビューできないかも。自分だけ彼氏できないとかだったらイヤだなあ。

 どうやったら琴美みたいな色気が出るんだろ。いや、色気はあたしにはむりか。じゃあ菜子ちゃんみたいなかわいい系でいくしかないのかな? 

「………………かわいいってどうやったらなれるんだろ」

 口に出した時点でもう一生かわいくなれない気がして虚しくなった。

 結局あたしはあたしだ。他の誰かになれはしない。

 あたしはまた諦めて爪を磨いた。磨いて、磨いて、磨きまくっているとふと手が止まる。

 ……あれ? そう言えばあの時…………。

 あたしはハッとした。心臓の驚いて跳ね始める。。

 気づいてはいけないことを気づいた感じがした。

 だけど一度気になったら頭から離れない。

 もう一度加世子の死体を見た時のことをゆっくり考えてみた。

 だけどやっぱりそうだ。おかしい。よくよく考えるとおかしいことがたくさんある。

 じゃあ、あれってもしかして……。

 いや、分からない。あたしの記憶違いってこともあるだろうし。

 でももしそうじゃなかったら、根本が崩れる。

 気になる。こうなったらもう絶対に寝られない。

 この気持ちを静める方法はただ一つしかない。

 あたしは悩んだ。悩んで悩んで悩み抜いた。それでもやっぱり気になった。

 だからあたしは家族が寝静まった深夜に加世子の死体を見に行くことにした。

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