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第12話

 お昼を食べる時は図書館から出ないといけない。あたし達は解放されている食堂にいた。

 あたしと琴美はコンビニで買ったパンとジュース。

 うーみぃは自分で握った大きいおにぎりと卵焼きとかの簡単なおかず。

 菜子ちゃんの自家製弁当が大きめなのはおかずを分けてくれるからだ。料理が好きでついつい作りすぎちゃうらしい。

 昨日の夜と今朝は食欲がなくて食べられなかったけど、みんなの顔を見て話してたらお腹が空いてきた。

 あたし達は律儀に「いただきます」をしてから食べ始めた。

 食堂にはあたし達以外誰もいないけど、先生が来る時があるから大っぴらに加世子の話はできない。でもあたしはそれが少し嬉しかった。

 メロンパンにかぶりつくと中のメロンクリームがあたしを癒やしてくれた。

「生き返るぅ~」

 菜子ちゃんは苦笑いして「それっておじさんが温泉入る時に言うやつじゃない?」とつっこんだ。あたしがえへへと笑うと琴美も呆れていた。

「愛花はすごいねえ。こんな時でも食欲あるんだから」

「いやいや。今朝までなにも食べてなかったから」

「あら珍しい」

「でしょ? あたしがごはん食べないなんてよっぽどだからね」

 うーみぃは「槍が降るな」と言っておにぎりを食べ、菜子ちゃんは「槍で済めばいいけど」とおかずを持ってきた紙皿に分けた。

 みんなが笑っていた。それがなによりも嬉しい。

 だけどみんな心の底からは笑えてない。それはあたしも同じだった。

 心に骨が刺さったように、いつもなにかを気にしている。どれだけ笑っていても脳裏に加世子の死体がこびりついていた。

「楽しそうね」

 後ろから急に声をかけられ、あたし達はビクッと体を震わした。

 振り向くと担任のコバセンがいた。小林先生は美人で優しい。三十二歳だけどまだ彼氏がいなくて、それを生徒達からからかわれてる。

「……あ。コバセン……。来てたんだ……」

 あたしはドキドキしていた。今、変な話してないよね? 加世子のこととか、死体のこととか、アリバイとか死体遺棄とかそういうことは一切してないはずだ。

 だけど確信が持てなかった。全然自信がない。もしかしたら気が緩んで言っちゃってる可能性もある。

 だからあたしはドキドキしていた。そんなあたしにコバセンは笑いかける。

「毎日来てるわよ。でも会うのは久しぶりね。私はいつも職員室で食べてるから。座っていい?」

「う、うん……」

 あたしは思わずOKしてしまう。しまったと思っても、もう遅い。

 コバセンはあたしの隣に座ってビニール袋からコンビニ弁当を取り出した。蓋を開けながら菜子ちゃんのお弁当を見ておっと驚く。

「もしかしてそれ、大津さんが作ったの?」

「え? あ、はい……」

「すごーい。先生なんて料理できないから未だにコンビニ弁当よ。もう大津さんがお嫁に来てくれたらいいのに」

「あはは……。ごめんなさい。わたしお母さんに結婚するなら家事ができる人にしなさいって言われてるんで」

「うう……。マジにフラれた~…………」

 コバセンはわざとらしく悲しんだ。それが面白くてあたし達も笑う。こういうところでコバセンが人気なのが分かる。

「でも偉いわね。毎日毎日来てるんだから。私がこんなこと言うのもなんだけど、一日くら遊びに行きたくならない?」

 あたし達は顔を見合わせた。琴美が代表するように「まあ、多少は」と答える。

「だよね~。海に行ったりとか山でキャンプとかしたいわよね~。先生も二十代のうちは行ってたわ」

「もう行かないの?」とあたしは聞いた。

「う~ん……。この歳になると紫外線が気になりだすと言いますか……」

 コバセンは苦笑いしてほっぺを手で軽くさすった。そしてあたし達を見てため息をつく。

「若いっていいわねえ。自由でなんでもできるんだから」

 なぜかその言葉があたしの胸をチクリと刺した。コバセンは続ける。

「私もまた女子高生に戻りたいわ。切実に」

 コバセンは笑ってお弁当を食べ出した。もちろんこれも冗談だ。だけど、あたし達は下手な作り笑いしかできないでいる。

 本当は違う。あたし達に自由なんてないんだ。

 あったとしてもそれはもう死んじゃった。昨日、加世子の死体を見た瞬間に。

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