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第10話

 お風呂から上がってしばらくするとお母さんとお父さんが帰ってきた。

 二人の顔を見てホッとしたけど、あたしの顔はあまり見られたくない。多分だけど、不安な表情をしてるはずだ。

 疲れたからと言って早めに部屋に行った。ベッドに倒れると疲れがどっと出てきた。思ったよりも疲れてる。体はまだ動くけど、心はもう限界だった。

 だけど寝ようと思っても全然寝られなかった。瞼を閉じると加世子の姿を思い出す。

 そして色んな想像が頭を駆け抜けた。

 もしかしたら加世子の死体が見つかってるかもしれない。警察が調査とかしていて、朝目が覚めたらやってきて捕まってる可能性だってある。そしたらあたしは終わりだ。

 この歳で捕まったらどうなるんだろう? 刑務所? それとも少年院? どっちも行きたくない。というより一生行かない場所だと思ってた。あたしの人生には関係ない場所だ。

 なのに今、あたしはそこに行くかもしれないと脅えている。普通に生きてるだけなのに。なにも悪いことをしようとは思ってないのに。

 そこであたしは気づいた。自分とは関係ないことなんてないんだ。

 あたしは毎日自転車に乗る。あれで人を轢いて死なせたら罪に問われるはずだ。原付に乗ってる人も、車に乗ってる人だってそうだ。

 でも考えない。自分が刑務所に行くなんて全く考えないで運転してる。その保証なんて全くないのに。

 だって悪いことをしようなんてこれっぽっちも思ってないから。だから自分にはそんな不幸は起きないと思ってるんだ。

 だけどそれは違う。日常はあっという間に崩れる。それもちょっとした不注意や不幸で壊れてしまう。

 普段なら見過ごされる些細なミスとか、自分ではどうしようもできない不運が起きたら終わりだ。いくら言い訳しても聞いてくれない。

 そう思うとあたしは世界が怖くなった。家の外に出たくない。いや、部屋の外からも出たくない。できるならずっとこうして寝ていたい。

 あたしは震える体を抱きながら何度も何度も願った。

 これは夢だ。起きたら全部元通りになってる。

 あたしは泣きながら何度も祈った。

 誰か助けて。神様。あたしを助けてください。

 あたしは何度も何度も泣いて、何度も何度も祈った。

 祈り続けていると瞼の裏に光を感じた。目を開けると朝になっていた。

 朝日を浴びると疲れた体はこれが現実だと否応がなしに理解した。

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