あたしはコンビニのベンチに座って空を眺めていた。いつの間にか曇り空になっている。
ひぐらしが鳴くのと一緒に涼しい風が山の上から流れてきた。
うーみぃは参考書を見つめ、琴美と菜子ちゃんはスマホをいじっている。
あたしは三人に尋ねた。
「今日はこれからどうする? もう帰る? それとも誰かの家で勉強する?」
琴美は腕時計で時間を確認した。
「どうしようかなあ。塾行ってもいいけど、なんか雨降りそうだし」
琴美は三年になってから麓の街の塾に通っていた。原付で行ってるから帰りは真っ暗で怖いとよく言っている。そこに雨も降ったら大変だ。あたしはうーみぃにも聞く。
「うーみぃは? 今日も配膳しなきゃ?」
「今日は大丈夫だ。団体客もいないし、人手は足りてる。菜子は? また個人授業か?」
菜子ちゃんも昔から塾っぽいのに行っていた。塾と言っても民家でしているやつで、どっちかと言うと家庭教師の家に行くみたいな形だ。
菜子ちゃんはスマホを見てからかぶりを振った。
「ううん。今日はないよ。どうしようか?」
菜子ちゃんの問いにあたし達は答えられなかった。
あたしんちは弟妹がいるからうるさくて勉強どころじゃない。琴美の家は遠いし、うーみぃの家は正直堅苦しい。あとは菜子ちゃんだけど、毎度毎度行くのも申し訳なかった。
じゃあどこに行くかというと、あてはなかった。
田舎だからチェーン店なんかないし、遊ぶ場所もない。街に行くにはバスに乗らないとダメだけど、この前遊んだばっかりだからお金がなかった。
都会ならバス代とか気にせずに近くのファミレスとかに行けるんだろう。そう考えるとやっぱり羨ましい。田舎にはなにもない。あるのは自然だけだ。
あと都会になくて田舎にあるものと言えば…………。
「……あ。あそこは?」
「あそこって?」と菜子ちゃんが聞き返す。
あたしは人差し指を立てて笑ってみせた。
「秘密基地。あそこならお金もいらないし、みんなの家にも近いじゃん」
あたしの言う秘密基地はここから県道を上がっていったところにある。バス停の近くに山にしか繋がってない旧道があって、少し行くと雑木林の中に廃墟があった。
古い工場らしく、壁はコンクリートでできているから頑丈だ。
あたしの提案に三人は顔を見合わせた。
「秘密基地ってあの工場?」と琴美。
「そう言えば中学の時はよく行っていたな」
うーみぃが懐かしむと菜子ちゃんも頷いた。
「いらない椅子とか持っていったよね。多分まだライトもあるかも」
「ね。箒とかも置いといたよね。あそこにお菓子持ってかない?」
うーみぃは「結局それか」と呆れていた。
「いいじゃん。毎日毎日勉強してるんだから今日くらい」
「愛花のそれも毎日聞いてる気がするけどね」と琴美が苦笑する。「でもたまには行ってもいいかもね。この機会を逃したらもうずっと行かないかもしれないし。あそこは一応思い出もあるからねえ」
うーみぃは顎に手を当て頷いた。
「まあいつ取り壊されるかも分からないし、今を逃せばもう四人で行くことはないかもな」
こういう時、うーみぃは案外ロマンチストだったりする。
だけど菜子ちゃんは心配そうだ。
「でも大丈夫かな? 中学の時も床とか腐りかけてたよね? なんか下に危なそうな鉄材とか見えた気がしたけど……」
「気をつければ大丈夫っしょ」
菜子ちゃんはまだ不安そうだったけど、結局多数決には逆らえず行くことになった。