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第2話

 中学の時に買ってもらったママチャリで古い県道を下っていくと風が涼しかった。

 何度も何度も通った狭いこの道は少しすると大きな道に出た。そこでようやく車が走っているのが見える。

 左折してさらに走ると家が建ち並んでいた。十軒かそこらだけど、わたしの住んでるところに比べたら賑やかだ。古くて小さい商店もあるけど、まだやってない。

 もう少し走ると十字路があって、そこにコンビニがあった。駐車場が広くて夜になると大きなトラックがたくさん駐まっているけど、朝はがらんとしていた。

 コンビニの前に自転車が一台駐まっていた。その隣に小柄な女の子が立ってスマホを見つめている。

「菜子ちゃんおまたせ~」

「あ。愛花ちゃん」

 菜子ちゃんこと大津菜子は幼なじみの一人だった。ちっちゃくて、でも目は大きかった。ショートボブがよく似合う菜子ちゃんは大人しくてみんなの妹的な存在だ。

「琴美とうーみぃは?」

「まだみたい。いつもはわたしより早いんだけど……」

 今日に限っては遅刻する気持ちもよく分かった。夕べはほとんど寝られなかったし、食欲だってない。とにかく体がだるかった。今だって下りだからなんとか来られただけだ。

 あたしと菜子ちゃんはそれ以上話さなかった。いつもならなんだって話題にするんだけど、今はそんな気分じゃない。

 あたしが到着して三分も経たないうちにロードバイクに乗ってうーみぃがやって来た。

「遅れてすまない。少し準備に手間取った」

 うーみぃこと緋田海は男の子みたいな話し方で謝った。穴が空いたヘルメットを外すとポニーテールが後ろで揺れる。目つきがしっかりしていて、背筋もピンと伸びている。

 うーみぃの家は県道を少し上がったところにある温泉旅館を営んでいた。結構大きい旅館で、老舗でもあるからこの辺じゃ知らない人はいないくらいだ。

 剣道もしていて県大会でベスト4の腕前だった。

「私としたことがぼーっとしてしまった。鍛錬が足りないな」

 普段は凜としているうーみぃも今日だけはあまり覇気がなく見える。

 うーみぃが来てから十分ほど待ってようやく琴美が原付に乗ってやってきた。

「ごめーん。出ようと思ったらジョルノがガス欠になりかけててさ。急いで上のガソリンスタンドまで行ってたんだ。こういう時原付って不便だよね」

 入江琴美は眠そうな顔で申し訳なさそうに笑った。

 肩まで伸びた髪にはパーマをあてて、夏休みだからって茶色に染めていた。顔立ちは大人びていてセーラー服を着てなかったら大学生に見える。あと胸が大きかった。

 琴美はあたし達の顔を見て優しく微笑んだ。

「……かわいそうに。あんたらも寝てないんだね」

 琴美にそう言われた時、あたしは泣きそうになった。もし周りに誰もいなかったら泣いてたかもしれない。

 あたしを含め、四人の目の下には薄らだけどくまがあった。みんな眠れなかったんだ。

 ああ。どうしてだろう。昨日の朝はみんなで受験の話をしながらゆっくり学校に行ったのに。ありふれた平和な毎日を過ごしていたのに。

 一体なんでこんなことになったんだろう?



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