これは後日善太郎から聞いた話だが、飯野一希が2人の女性を殺害した理由は「映画のリアリティを出すために生々しい遺体を用意しようと思っていた」とのことであり、改めて飯野一希という人物がクズだと感じた。こんな状況で、私がよく事件に巻き込まれなかったと思う。
一方、その日の私は――溝淡社の担当者である真田宗介とビデオチャットで話をしていた。ビデオチャットはやはり原稿の進捗状況に関するモノがメインだったが、話は次第に例の事件へとシフトした。
「あの、卯月先生が京都で発生した猟奇殺人事件を解決したって本当でしょうか?」
そうか。一般人の目にはそう見えるのか。私は
「いや、別に私が解決した訳じゃないし、探偵の活躍があって初めて事件は解決できたと言えますが……」
「なるほど。――その結果が、この小説であると。確かに、卯月先生が京極冬彦に影響を受けたのは承知済みですが、いくらなんでもこれはやりすぎですよ。――まあ、いいですけど」
結果的に、私は京極冬彦に影響されて――妖怪小説のような何かを書いていた。もっと別のモノを書くつもりだったのに、これじゃあ商業で出せない。
真田宗介は話す。
「これが同人誌ならいいですけど、商業でこんなモノをお出しにされたら顰蹙は避けられない状態ですよ?」
「まあ、そうでしょうね。妖怪小説は京極先生の専売特許ですし」
「でも、僕は好きですよ? 同人で良ければ出すというのもありだと思います」
「そうですか。――検討しておきます」
そうやって話したところで、私は真田宗介とのビデオチャットを終えた。
それにしても、速水善太郎という人物は――不思議で仕方ない。多分、彼がいてくれるから私はこうやって生きているのだろう。――あの事件以来、連絡を取ってないな。
私は、善太郎のスマホに短いメッセージを入れた。
「――会いたいな」
既読はすぐに付いた。――なんだ、会いたがってるじゃないの。
それから、私は阪急に乗って――京都へと向かった。(了)