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41.操られる駒たち

 Side 涼太


 学校の裏手にある、倉庫跡地。

 高嶺鈴の取り巻きの一人──陶山すやま涼太りょうたは壁に背を預けると、足元に転がっている空き缶を乱暴に蹴り飛ばした。


「……クソッ! 小林の奴、由井にうまく丸め込まれやがって」


 苛立ちのあまり、思わずそんな悪態をつく。


「由井って、ただの陰キャだと思っていたけど意外としぶといのね。小林みたいに単純な奴まで取り込むなんて、意外だったわ」


 同じく鈴の取り巻きである遠藤えんどう彩音あやねが、涼太の言葉に同意した。その言葉に涼太は眉根を寄せ、吐き捨てるように言った。


「あいつが言い包められたせいで、計画が台無しだ。なんでこんなことになったんだろうな」


「小林がただの腰抜けだっただけでしょ。あんな簡単な役目すらまともに果たせないなんて、情けないわ。……さて、どうする? 作戦は、見事失敗に終わったけれど」


 彩音がそう問いかけてきたので、涼太は小さく嘆息する。鈴は、「小林をうまく使って由井を登校拒否に追い込め」と指示してきた。だから、涼太たちは彼を唆して湊の元に向かわせたのだが……結果として失敗に終わってしまった。


「どうするも何も、鈴に報告するしかないだろ。きっと、また何か手を打ってくれるさ。俺たちは、指示通りに動けばいいだけだ」


 涼太はそう言いながら、ポケットからスマホを取り出した。鈴への連絡は、最早自分たちにとって習慣のようなものだった。スマホを握りながら、涼太は話を続ける。


「あいつ……クラスの中でも目立たない陰キャだった癖に、最近調子に乗っているよな。詳しくは知らないけどさ……なんか、バイト中に迷惑客に絡まれていた同僚を助けたとかでヒーロー扱いされているらしいじゃん」


 その言葉に、彩音は鼻で笑った。


「そういうところが由井の弱点なのよ。お人好しだからこそ、こっちもつけ込めるってわけ。鈴だって、そこを見抜いてあいつを陥れたんでしょ?」


 彩音の言葉に、涼太はに頷く。


「まあ、確かにな……。でも……由井のことだから、多分また何か余計なことをしてくると思う。今度はもっと念入りに仕掛けないと、また失敗するな」


 涼太がそう言うと、彩音はしばらく考え込むように視線を落とす。そして、悔しそうに唇を噛みながら言った。


「そうね。何か方法を考えなきゃ……」


「ああ。とりあえず、鈴に連絡するか」


 涼太は頷くと、手早くスマホを操作して耳に当てる。程なくして、通話が繫がった。


『もしもし? どうしたの?』


 電話越しに聞こえてきた鈴の声に、涼太は思わず言葉が出なくなった。その声があまりにいつも通りで……いや、むしろ機嫌がいいように感じられたからだ。涼太はごくりと固唾を呑むと、恐る恐る口を開いた。


「いや、その……実は……」


『もしかして、失敗した?』


 涼太が言いかけると、鈴はすぐにそう尋ねてきた。その口調には、一切の淀みがない。


「え? ……ああ、うん……そうなんだ。ごめん」


『そう。分かったわ。じゃあ……明日の放課後、いつもの場所に来て』


 涼太が頷くと、鈴はそれだけ言って電話を切った。彼女の言う「いつもの場所」とは、部室として使っている美術室のことだ。涼太達は、いつもそこで作戦を練っている。


「……どうだった?」


 涼太がスマホをポケットにしまうと同時に、彩音がそう尋ねてきた。


「明日の放課後、美術室に来いってさ」


「そっか……鈴、また怒り出さないといいんだけど……」


 彩音がそう言うと、沈黙が流れる。涼太と彩音はじっと虚空を見つめたまま、鈴がまた不機嫌になるのではないかと心配していた。


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