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34.緊急事態

 数日後。あの事件以来、俺はSNSを頻繁にチェックするようになった。

 勿論、理由は世羅が理不尽な晒しや誹謗中傷を受けていないか確認するためである。だが、今のところ彼女に対する悪意のある投稿は見当たらない。


 世羅は、SNSを始めたのはつい最近だと言っていた。

 俺自身、当時からSNSを頻繁に利用していたわけではないので普通の高校生がどういった投稿をしているのかわからないのだが、彼女の呟きはどこか慎重さを感じさせた。

 風景写真、ペットであるモモの写真、それにお気に入りのカフェやスイーツを紹介する投稿がほとんどを占めており、あまり自分自身のことを前面に出していない。


(やっぱり、あんなことがあったから警戒しているんだろうな)


 俺はそんなことを思いながら、彼女のアカウントのタイムラインをスクロールしていた。


 あの迷惑客たちは、世羅がわざと服を汚したように見せかけようとしていた。そして、後々SNS上で晒し上げて「この店員は、気に入らない客に対して嫌がらせをする」などと事実無根のデマを吹聴するつもりだったのだろう。


 もっとも、世羅が悪意のある行動をとったわけではないことは俺が咄嗟にフォローを入れた甲斐もあって店内にいた誰もが知るところとなったのだが……それでも、あの客たちが今後も迷惑行為を繰り返さないという保証はどこにもない。


(俺が何とかしなきゃな)


 改めて心の中でそう決意すると、俺はベッドに寝転がり小さく息を吐いた。


(せめて、あいつらのアカウントが分かればいいんだけどなぁ)


 実は、あれから数日経って自分の中で記憶が補完されたお陰でようやく世羅がSNSで炎上した経緯が分かったのだ。

 勿論、あの迷惑客たちが世羅を貶めようと企み理不尽な晒しを行ったアカウント名もばっちり覚えていたのだが……どういうわけか、検索してもそれらしきアカウントが引っかからないのである。


(もしかして……俺が行動を起こしたことが切っ掛けで、奴らが晒し用のアカウントを作るのをやめたとか……?)


 もしそうだとしたら、そのまま諦めてくれれば万々歳なのだが……。

 そんなことを考えながらも、スマホの画面とにらめっこをする。すると、不意にスマホが振動し始めた。どうやら、凪沙から電話が掛かってきたようだ。俺は慌てて通話ボタンをタップする。


「もしもし?」


『湊君! 大変だよ!』


 電話の向こうからは、焦ったような凪沙の声音が聞こえてきた。


「ど、どうしたの?」


 なんだか嫌な雰囲気を感じながらも、俺は凪沙に尋ねる。すると、彼女は一呼吸置いてから口を開いた。


『孝輝君が事故に遭ったんだって!』


 それは、あまりにも衝撃的な知らせだった。


「事故って……どういうこと……?」


 動揺を隠せないまま、俺は聞き返す。


『さっき、孝輝君のお姉さんから聞いたんだけど……自転車に乗っていた時に、車とぶつかって事故を起こしちゃったみたいで……』


 凪沙は沈痛な声で答えた。なんでも、彼女は今日たまたまバイトのシフトが入っていたらしく、店に出向いたところ孝輝の姉である紗菜さんとばったり会って事故のことを知ったようだ。


「そ、それで……容態は……?」


『病院に搬送されたらしいんだけど、まだ詳しい状況が分からないみたいで……これから、お姉さんと二人で病院に向かうところなんだ』


 それを聞いた途端、一気に血の気が引いていく。脳内に最悪の状況が思い浮かんだ瞬間、足が勝手に動いて走り出していた。


「俺も今から病院に行くよ!」


『えっ!?』


 俺は凪沙の返事を聞く前に通話終了ボタンをタップすると、すぐさま部屋を飛び出した。


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