(え……? なんで……?)
予想外のことに、頭が混乱する。
しばらくして世羅が厨房に戻ってきたので、俺は慌てて声をかけた。
「あ、あのさ……さっき、あのお客さんたちに声をかけられていたみたいだけど、なんの用だったの?」
「え? デザートを追加で注文したいって言われただけだけど……なんで?」
「あー、なるほど。いや、なんでもないんだ。変なこと聞いてごめん」
(……まずい。世羅があの三人と接触するのは非常にまずい。せっかく、回避できたと思ったのに……)
……と、そこまで考えたところで俺は首を横に振る。
いや、大丈夫。デザートが出来上がったら、また俺が持っていけば済む話だ。
そうすれば、奴らに世羅がわざと足を掛けられることはないだろう。
──自分の行動ひとつで未来が変わってしまう。その事実を実感し、俺は思わず拳を強く握った。
「あのー、すみません。注文いいですか?」
不意にそんな声が聞こえたので顔を上げると、いつの間にか別の客が手を挙げていた。
「はい、ただいま参ります!」
俺はそう答えると、急いでその客の元に向かった。
オーダーを聞きながらも、横目で三人の迷惑客の様子を窺う。すると、世羅がデザートを持って彼らの方に歩いていくのが見えた。
(え……? まさか、もうデザートが出来上がったのか!?)
心の中でそんな声を上げつつも、オーダーを受ける。
このままだと、世羅はまた足を引っ掛けられて転んでしまう。そんな不安が頭によぎったが、意外にも彼女は三人の目の前にデザートをそれぞれ置くとぺこりと頭を下げて今度は別の客の注文を取りに行った。
(あれ……何もされなかった……?)
俺は首を傾げながらも、厨房へと戻る。──その時だった。突然、ホールの方から怒号が聞こえてくる。
どうやら、揉め事が発生したらしい。声が聞こえてきた方向に視線を移すと、世羅が例の三人に詰め寄られていた。
「あのー、注文したのと違うデザートが来ているんですけどぉー?」
グループの一人が不満そうにそう言いながらテーブル上の皿を指さす。そこには、チーズケーキが置かれていた。
「え……? でも、先ほどお客様がご注文されたのはこちらでしたよね?」
世羅が怪訝そうに聞き返すと、男は意地の悪い笑みを浮かべて声を荒らげた。
「だーかーらぁー! 間違えているんですってば!」
周囲の人々の視線が集まってくるのを感じたのか、世羅は表情を強張らせた。
「で、でも……確かにご注文は……」
「あーもう、うざいなぁ! 早く取り替えてくださいよ!」
そう言って、男は世羅を睨みつける。おそらく、世羅はオーダーミスなどしていない。男の態度から察するに、本当は合っているのに難癖をつけて彼女を困らせる気なのだろう。
(あいつら……! そう来たか……!)
……まさか、一回目のタイムリープの時とは違う方法で世羅に嫌がらせをしようとするなんて思わなかった。