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30.運命への抵抗

 凪沙と別れた後、俺は帰路につきながら考え込んでいた。

 これからのことについて考えていたものの、頭の中には疑問が浮かんでは消えてを繰り返すばかりだった。


(なんでこんなことになったんだ……? 一体、どうして……?)


 高校時代にタイムリープして過去を変えたことで、明るい未来が待っているはずだった。実際、俺はバイト先で店長にまで昇進したわけだし、それに関して不満はない。

 けれど──それと相反するように、世羅たちの立場や状況が悪化していた。

 そもそも、タイムリープをすること自体がイレギュラーな出来事だ。だから……その結果、歪が生まれているのかもしれない。


 色々な思考が交錯し、頭が混乱する。

 ふと我に返ると、いつの間にか家に着いていた。

 俺はリビングに直行すると、そのままダイニングテーブルに突っ伏した。


(さて……どうしたものか)


 そんな風に悶々としていると、いつの間にか深夜零時を過ぎていた。今日はもう寝てしまおう。そう思い、ベッドに横になり眠ろうとしたもののすっかり目が冴えてしまっている。

 あまりにも色々な出来事が起きたせいか、身体は疲れているはずなのに眠ることができないのだ。

 結局、俺はそのまま朝までリビングで過ごすことにしたのだった。



 翌日。ふと気づけば、日が高く昇っていた。

 結局、一晩考えてもこの状況を打開する方法は思いつかなかった。

 そもそも、世羅とは別れたのだ。俺が関わろうとすればするほど、余計に彼女を苦しめる結果になるのではないか。そんな考えが頭をよぎる。


「俺は、どうすればいいんだ……?」


 答えなど返ってくるはずもない問いを虚空に投げかける。

 結局、俺は何もできない無力な人間だ。その事実だけが、重くのしかかる。いっそのこと、何もかも諦めてしまおうか。


(……いや、駄目だ)


 やっぱり、諦められない。考えろ。何か手はあるはずだ。ふと、頭に「後悔」という二文字が浮かぶ。

 俺は世羅のことが好きだ。それは間違いない。そして、自分のことを信じて味方になってくれた孝輝や凪沙にも幸せになってほしい。

 ここで行動を起こさなければ、きっと一生後悔することになるだろう。

 だから、俺は覚悟を決めることにした。もう一度、運命と向き合うのだ。そして──その運命に抗おう。


「……よし、やろう」


 覚悟が決まったら、あとは行動に移すだけだ。

 俺はクローゼットを開くと、隅に置かれた紙袋の中からスケッチブックを何冊か取り出した。


(あの日に戻ることができれば、きっと世羅を助けられるはずだ)


 ページを捲りながら、俺はタイムリープの条件について考える。

 これはあくまで推測だが……まず、一番重要なのは俺自身が「後悔」をしていること。文字通り、「やり直したい」と強く願っていれば過去に戻れるのだろう。

 そして──おそらく、過去の自分がスケッチした瞬間にしかタイムリープができない。

 もし、思い出の場所や品などがトリガーになっているとしたら、とっくの昔にタイムリープ出来ていたはずだからだ。


 そんなことを考えているうちに、目的の絵が見つかる。

 そこには、孝輝の両親が経営するレストラン『Heart Reefハートリーフ』の制服を身に纏った世羅と凪沙の姿が描かれていた。


「あった……これだ!」


 思わず、歓喜の声を上げる。これで、もう一度過去にタイムリープすることができるかもしれない。そう思うと、心が弾んだ。


「よし……」


 深呼吸をして心を落ち着かせると、俺はスケッチブックを開いたままテーブルの上に置く。そして、ゆっくりと目を閉じた。


「頼む……もう一度、あの日に戻ってくれ!」


 そう強く念じながら、俺は意識を集中した。

 付けっぱなしになっていたテレビの音が、徐々に遠のいていくのを感じる。やがて、視界は暗転し──俺は、そのまま深い眠りにつくように意識を手放した。


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