少し間が空いて、やっと状況が飲み込めた様子の世羅は微かに頬を染めながら恥じ入るように俯いた。
「え? わ、私、いつの間にか寝ちゃってたんだ……。あ……その、肩に寄りかかっちゃってごめんね。重たくなかった……?」
「いや、全然そんなことないよ」
言葉通りに何の問題もなかったため、俺は軽い調子でそう答える。それを聞いた世羅は、再び俯くと何やらボソボソと独り言を呟き始めた。
「……よし、この際だから勇気を出して伝えよう」
不意に、そう呟いて顔を上げた世羅が俺を射抜くように見つめてきた。
「あ、あのね……湊君。こんなタイミングで言うのもどうかと思うんだけど……」
「……うん?」
何だろうと思いつつ耳を傾けると、世羅は意を決した様子で口を開く。
「湊君。私ね……実はずっと前から、その……」
(こ、これは……もしかして告白の流れか……?)
テンプレのような流れに、俺は緊張からゴクリと唾を飲み込む。
世羅はそんな俺の様子を上目遣いで窺いながら、言葉を続けた。
この切り出し方から察するに、100パーセント告白と言っても過言ではないだろう。
(……まさか、世羅も自分と同じ気持ちだったなんて夢にも思わなかったな)
驚きと喜びが綯い交ぜになった複雑な心境で、俺は続く言葉を待つ。……が、ふと頭にある考えがよぎった。
(でも……だとすれば、女子から告白させるのは男としてどうなんだろう?)
俺は、世羅が勇気を振り絞って告白しようとしているであろうそのタイミングに割り込んでしまうのを申し訳なく思いながらも、意を決して口を開いた。
「ごめん、世羅。ちょっと待った」
そんな俺の言葉に、世羅は「えっ……」と声を漏らす。
「えっと……ど、どうかした?」
どこか気落ちした様子でそう尋ねてきた世羅に、俺は慌てて首を振った。
「いや、そうじゃなくて! こういうことは、男から言うのが筋かなと思ってさ!」
「……へっ?」
世羅はぽかんとした顔で見つめてくる。こちらの意図をいまいち正しく理解できていない様子だった。
「──俺、高校生の頃からずっと世羅に惹かれていたんだ。この九年間、本当に後悔ばかりで……どうしてあの時言えなかったんだろう、どうして遠ざけてしまったんだろうって……ずっと罪悪感に苛まれてきたし、思い悩んできた」
気づけば、九年分の想いを吐露していた。
ただ……よく考えてみれば、世羅は俺が過去にタイムリープしたことを知らない。頭がおかしい奴だと思われる可能性もあるのだ。
そう考えたら、なんだか急にいたたまれなくなってきてしまう。だが、そんな俺の気持ちとは裏腹に世羅は瞳を潤ませながら言った。
「ありがとう。凄く嬉しいよ。私も、同じ気持ちだったから。でも……九年間ってどういうこと? 今だって高校生でしょ? 湊君って、時々面白いこと言うよね」
予想外の返事に、俺は言葉を詰まらせた。
どうやら、引かれたわけではなさそうだ。咄嗟に「あ、いや……それくらい思いが強いってことだよ!」と誤魔化すと、彼女は、はにかみながらも言葉を続けた。
「じゃあ、その……両思いってことがわかったわけだし……私たち、付き合っちゃう?」
頬を赤く染めて目を逸らした世羅の突然の発言に、今度はこちらが赤面してしまう。
「う、うん……世羅さえよければ……」
そう返事をした次の瞬間──不意に意識が遠のいたかと思えば、世界が暗転した。