「それじゃあ……そろそろ解散しようか」
楽しい夏祭りも、あっという間に終わってしまった。
名残惜しさを感じつつも、俺は三人に尋ねる。
「とりあえず、俺はもう帰るけど……皆はどうする?」
「私も、もう帰ろうと思っているよ」
「俺はコンビニに寄ってから帰ろうかなぁ」
凪沙と孝輝が各々そう答えると、最後に世羅が口を開いた。
「私も、このまま帰るよ。……今日は、本当に楽しかったよ! また、皆で来ようね」
俺たちは自然な流れで輪になると、各々「また明日」と言って別れを告げる。
一先ず、世羅と凪沙は駅までは方向が同じなので、三人で駄弁りながら歩くか。
そんなことを考えながら、歩き出そうとした瞬間。不意に孝輝が大声を上げた。
「そういえばさ、凪沙! さっき、コンビニに用があるとか言ってなかったっけ!?」
「えっ? ううん……私、そんなこと言った覚えないけど……」
「いや、絶対言ってたって! ほら、思い出してみろよ! 何か買い忘れたものがあるだろ!?」
「え? ええぇ……ちょっと、孝輝君……!?」
「それじゃ、俺達はコンビニに寄ってから帰るから! 湊も世羅もまた明日な!」
強引に言い包めようとしてくる孝輝に困惑していた凪沙だったが、気圧されたのかそのまま引きずられるようにして彼と一緒にコンビニがある方向に歩いていった。
「えーと……うん、また明日……」
俺は呆気にとられながらも挨拶を返す。
(孝輝の奴……もしかして、気を遣ってくれたのか?)
少々強引な気もするが、世羅と二人きりになれるように彼なりに気を遣ってくれたのだろう。
そんなことを考えながらも、去っていく二人の背中をぼんやりと眺める。
二人だけになると、やがて世羅はこちらを窺うようにチラリと視線を向けてきた。
「二人きりになっちゃったね」
どこか照れた様子でそう言う世羅に釣られるように、俺もドギマギしてしまった。
二人の間に微妙な空気が漂う。しばしの間沈黙が続いた後、不意に世羅が視線を落とした。どこか憂いを帯びたその表情を見た俺は、思わず声をかける。
「……どうかしたの?」
尋ねると、世羅は静かにかぶりを振った。
「ううん……何でもないよ」
「……そっか。俺は駅に直行するけど、世羅は本当にどこにも寄らなくていいの?」
世羅はしばらく何事かを悩む様子を見せていたが、やがて小さく首を横に振った。
「うん」
「じゃあ、一緒に駅まで歩こうか」
俺はそう言うと、せめて帰り道くらい楽しい気分でいられるようにと他愛もない話題を探した。
「さっきのヨーヨー釣り、楽しかったよね」
そんな俺の言葉に対し、世羅は「うん!」と屈託なく笑顔を返してくれた。
商店街を抜けて駅に到着した俺と世羅は、駅前のちょっとした広場にやって来た。
二人横に並んでベンチに腰掛けつつ、なんとなしに雑談を始める。しばらく他愛もない話で盛り上がっていたが、やがて隣から安らかな寝息が聞こえてきた。
「ん……」
俺の肩に寄りかかるように頭を預けた世羅は、小さく身じろぎした。
その顔を覗き見ると、彼女はどこかあどけなさを感じさせる表情で眠りについている。
(寝顔も反則級に可愛いな……)
そんな感想を抱きながらも、俺は彼女の肩を軽く揺さぶった。
「こんなところで寝たら駄目だよ。ほら、起きて」
俺の言葉に目を覚ました世羅は、そのまま驚いたように俺と視線を合わせる。