(高嶺たちも、夏祭りに来ているのか……鉢合わせしないといいけど)
そんなことを考えながらも、俺はふと頭上に広がる沢山の提灯に目をやる。
幻想的な淡い赤や橙色の灯りが辺りを照らしている。その色を見つめていると、何故か余計に不安が増してきた。
そして──そんな俺の心境を察したのだろうか、隣にいる世羅が気遣わしげな顔で俺を見つめている。
「大丈夫だよ、湊君」
何かを察したらしい世羅がそう励ますように言葉を掛けてくれたが、それでも不安の種は消えなかった。
嫌な予感をひしひしと感じながらも、屋台が立ち並ぶ通りを進んでいく。俺達は、しばらく辺りを散策していた。
「ねえ、あれ美味しそうじゃない?」
世羅が目を輝かせながら指差した先には、りんご飴やチョコバナナといった屋台が並んでいる。
俺は思わず財布の中身を確認した。
(まあ……少しくらいなら羽目を外しても大丈夫だろう)
心の中でそう結論付ける。そんなわけで、俺たちは各々好きな物を購入して食べ歩くことにした。
「んー、甘くて美味しい!」
りんご飴をひとくち齧ると、世羅は満面の笑みを浮かべてそう言った。その幸せそうな表情を見ていると、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。
「確かに、美味しいな」
俺も世羅に倣ってりんご飴を齧ると、その甘さとシャクシャクとした食感に舌鼓を打った。
凪沙と孝輝もそれぞれ選んだ食べ物を美味そうに頬張っている。
俺は夏祭りの風景を思い出に残そうとスケッチブックを取り出すと、その場で絵を描き始めた。
りんご飴を頬張る三人、金魚すくいを笑いながら楽しむ子供たち、通りを練り歩く色とりどりの浴衣姿の人々──夏祭りの思い出のワンシーンを切り取り、俺は鉛筆を走らせる。
スケッチに夢中になっていると、「おーい、湊。そろそろ行くぞー」という孝輝の声が聞こえてきた。俺は「ああ、今行くよ」と答えながら、鞄にスケッチブックをしまい込むと皆の後を追った。
それからしばらく屋台を見て回った後、俺たちは境内にあるベンチに腰を落ち着けて休憩していた。
「あ、そういえば……湊君! 今日、新人賞に送る原稿を見せてくれるって言っていたよね?」
世羅が目を輝かせながら、不意に思い出したように言ってくる。俺は思わず苦笑いを浮かべた。
以前、バイトの休憩時間にユニフォーム姿の世羅と凪沙を描いた際、二人に「原稿を見せてほしい」と頼み込まれ、約束してしまったのだ。
実は、俺はアナログで漫画の原稿を描いている。
というのも、尊敬してやまない伊佐美彰氏がアナログで原稿を描くタイプの漫画家らしく、彼の影響もあって自分もアナログで描くようになったのだ。
「そうだけど……あまり期待はしないで欲しいかな」
「そんなことないよ! 早く見たいなぁ」
世羅は期待に満ちた表情でそう言うや否や、俺を逃がさないと言わんばかりにじっと見つめてきた。その様子に気圧されてしまい、俺はおずおずと彼女に原稿を差し出す。
俺は鞄から原稿を取り出し、世羅に手渡した。彼女はわくわくした様子でそれを手に取ると、食い入るように読み始めた。
そんな彼女を見守っているうちに、次第に恥ずかしさが込み上げてきてきた。目の前で人に原稿を見られるのはなかなかに気恥ずかしいものである。
孝輝と凪沙も、身を乗り出して俺の原稿を覗き込んでいた。
しばらく沈黙が流れた後、不意に世羅が顔を上げた。その表情は驚きに満ちている。
やがて、彼女は口を開くと興奮気味に捲し立てた。
「すっっごく格好いいよ! 絵は綺麗で繊細なのに、迫力があって……なんていうか、独特な世界観があると思う……!」
目を輝かせながら感想を言ってくる世羅に俺は思わず照れてしまい、思わず視線を逸らしてしまう。
「そ、そうかな?」
「うん! 私、この作品好きだよ」
「そ、そっか……。ありがとう……」
ストレートに褒められてしまい、俺は思わず頬をぽりぽりと掻く。
「本当に凄い……」
世羅に続いて、凪沙がぽつりと呟くようにそう言った。