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21.夏祭り

 それから何度かバイトのシフトに入ったものの、幸い、あの日以来トラブルが発生することはなかった。

 俺は杞憂だったことに胸をなで下ろす反面、モヤモヤとした何かを感じながら日々を忙しく過ごしていた。

 そんなある日のこと。世羅から「夏祭りに行こうよ」と誘われ、商店街にある神社で行われる縁日に行くことになった。

 但し、今回は二人きりで行くわけではないのでデートではないのだが。

 というのも……うっかり孝輝と凪沙の前で夏祭りに行くことを話してしまい、成り行きで二人も一緒に行くことになったのだ。


(結局、お馴染みのメンバーか……でもまあ、仲間と一緒にわいわい過ごすのも悪くはないよな)


 そんなことを考えながらも、俺は数日後の夏祭りに思いを馳せていた。


 そして、いよいよ祭り当日。

 大通り沿いにある商店街へと足を運ぶと、辺りは既に夕焼け色に染まっており、街灯が点灯し始めていた。

 待ち合わせ場所である神社の入り口に着くと、すぐに凪沙と世羅の姿を見つける。


「あ、湊君! こっち、こっち!」


 俺に気付いた世羅が、大きく手を振ってくる。その隣では凪沙が軽く手を上げていた。


「二人とも、早いね」


 そう声をかけると、世羅がにこやかに言った。


「だって、今日のお祭り凄く楽しみだったんだもん。だから、早めに出てきたの」


 そう言いながら、世羅は凪沙と顔を見交わし微笑み合う。


(あれ? この二人、なんか急に仲が良くなったような……)


 ついこの間まで、なんとなく険悪な空気を感じていたのだが。


(うーん……やっぱり、女子のことはよくわからないな)


 そんなことを考えながらも、どこか浮かれている様子の二人に俺は思わず笑みを浮かべてしまう。

 ふと、孝輝の姿が見えないことに気づいた。


「あれ? 孝輝はまだ来ていないの?」


「そうみたいだね」


 そんな会話をしていると、やがて孝輝がやってきた。


「悪い、ちょっと遅れちまった」


「何かしていたの?」


 凪沙が尋ねると、孝輝は「いや」と短く首を横に振る。


「ちょっと野暮用でさ。……って、そんなことどうでもいいじゃん。それより、早く行こうぜ」


 孝輝はやや強引に促すと、先頭を切って歩き始めた。俺たちは、首を傾げながらもその後を付いていく。

 神社の鳥居を潜ると、祭囃子が聞こえてくる。通りを行き交う人々は皆、色鮮やかな浴衣を纏い楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 そんな浮き立った空気の中、不意に誰かに声をかけられる。


「あれ? もしかして、由井君?」


 振り返ると、そこにはクラスメイトである二条にじょう縁士えにし小日向こひなた紫音しおんが立っていた。


 二条縁士──確か、彼は学級委員だったな。勉強ができて、クラスをまとめ上げる力もある優秀な生徒だったはずだ。

 そして、もう一人の小日向紫音と言えば……彼女も学級委員で、真面目で融通が利かないところはあるが、いつもクラスのことを気にかけていたように記憶している。

 そんなことを考えていると、隣にいた孝輝が口を開いた。

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