Side 凪沙
(世羅ちゃんって、私とは真逆のタイプでちょっととっつきにくいイメージがあったけど……話してみると結構気さくな子だったんだな)
実際の世羅は、他人の気持ちを思いやれる人であるようだ。お陰で凪沙の心は以前よりずっと軽くなったように感じられた。
そう実感した凪沙は、「うん」と力強く頷く。
「もちろんだよ。私のほうが湊君への想いが強いってことを証明してあげるんだから」
「ふふ……私だって負けないよ?」
こうして、凪沙と世羅の宣戦布告が成立し、恋敵から同士のような関係へと変わったのだった。
そんなことを思い出しながらも初めてのアルバイトに励んでいると、いつの間にか小休憩の時間になった。
店主から「今のうちに休憩に入ってくれ」と言われたので、凪沙はバックヤードに移動する。すると、湊と世羅が先に休憩に入っていたようで、ちょうど会話の最中だった。
「あ、凪沙! ちょうどいいところに!」
凪沙が休憩室に入った瞬間、世羅が明るい声を上げた。
「今、湊君にスケッチをお願いしようと思っていたところなんだ。せっかくだから、
記念に制服姿の私たちを描いてもらおうよ! ほら、ここに座って」
「え? う、うん……」
促されるままに椅子に腰掛けたはいいが、凪沙は正面に座る湊にどぎまぎしてしまう。
なんとか顔に出さないよう細心の注意を払いつつ、凪沙は彼が絵を描く姿をじっと眺めていた。
(どんな風に描くんだろう……?)
湊は、時々「うーん」と唸りながらもペンを動かしている。そして、しばらく経つと凪沙たちの前にスケッチを差し出してきた。
その出来栄えの良さに、「わぁ……」と感嘆の声を漏らす。素人が描いた絵には到底見えなかったからだ。
「湊君って本当に絵を描くのが好きなんだね! 絶対、将来プロの漫画家になれるよ!」
凪沙がそう賛辞を贈ると、湊は照れくさそうに頬を掻いた。
「ありがとう……二人には言ってなかったけど、実は今、新人賞に応募するために作品を描いているところなんだ」
湊の言葉に、凪沙と世羅は顔を見合わせる。湊が漫画家を目指しているということは聞いていたが、まさか高校生のうちから新人賞に応募するなんて思わなかったからだ。
「へぇ……そうだったんだ! すごい!」
(知らなかった……夢に向かって頑張る姿も、格好いいな)
湊の意志の強さを目の当たりにし、尊敬の念を抱くと同時に熱い視線を送っていると。不意に世羅と目が合った。どうやら、彼女も同じことを思っていたようだ。
お互いに目配せをすると、凪沙と世羅は頷き合う。その様子を見ていた湊は、不思議そうに首を傾げていた。
「あ……そろそろ休憩時間も終わるね。仕事に戻ろっか」
世羅のその一言で、その場はお開きになったのだった。