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17.不穏

「実は、今日はその……コンタクトにしてみたんだ。気づいてくれて嬉しいな」


「へぇ……湊君ってずっと眼鏡女子が好きなのかと思っていたんだけど、そういうわけでもないんだ……?」


 少し離れたところで、ぼそっと呟く世羅。「ん? どういうこと……?」と返すも、今度は彼女が不機嫌になってしまった。


「別に、なんでもないよー」


「えっと……なんか怒ってる?」


 何故だかよく分からないが、そっぽを向かれてしまう。

 助けを求めつつ再び凪沙のほうを見るが、彼女は何やら自分の世界に浸っているらしく破顔しており、こちらの合図に全く気づいてくれなかった。


(だ、駄目だ。陰キャ生活が長かったせいか、異性の友人との付き合い方がわからない……)


 心の中でそうぼやきつつ、途方に暮れてしまう。俺たちのやり取りを遠巻きに眺めていた孝輝は、愉快げに笑っていた。

 俺はそんな友人の顔を恨めし気に見つめる。

 孝輝はその視線に気づいたのかハッとした顔になると、「あはは……悪い、悪い」と言いながら俺たちの輪に加わってきた。


(……今度、お詫びにジュースでも奢らせてやろう)


 そう決意していると、店主である孝輝の父親が声をかけてきた。


「みんな、準備はできたか?」


 その言葉に、全員が気を引き締める。

 そうだ、今はまずバイトに集中しなければ……そう思いながら俺は店主のほうへと向き直った。


「はい、大丈夫です! よろしくお願いします!」


 俺は威勢よくそう言う。他のみんなも緊張した様子で深く頭を下げた。


「初めてで色々戸惑うこともあると思うが、しっかりサポートするから安心してくれ。……それじゃあ、まずは店内の掃除から始めてもらおうかな」


 俺たちは「はい!」と返事すると、各自持ち場につき始める。


(よし……頑張ろう)


 そんな意気込みを胸に抱きつつ、俺はモップを片手にホールへと出た。

 手早く掃除をしていると、不意に孝輝から声をかけられる。


「なあ、湊。お前、本当にバイト初めてなのか?」


「え? うん。そうだけど……」


 そう返すと、孝輝は「へぇ」と興味深そうに呟いた。


「なんか手馴れているなと思ってさ」


「そうかな? 別に普通だと思うけど」


 そう誤魔化したものの、孝輝は怪訝そうな表情をしている。

 まさか、「タイムリープする前はフリーターをしていました」なんて言えるはずもないので、俺は話題を逸らすことにした。


「そういえば、なんで急に人手が足りなくなったんだ?」


 俺が知る限り、この店には社員とアルバイトのスタッフが数人いたはずだ。あの人達は、一体どうしたのだろうか。

 そんな俺の疑問に、孝輝は神妙な顔で答えた。


「実は、ちょっと前に全員辞めちゃったんだよ」


「え!? 全員……?」


 俺が驚くと、孝輝は「ああ」と頷く。


「理由は……?」


 そう尋ねると、孝輝は苦々しい表情を浮かべながら答えた。


「いや、うーん……それはわからないけど……」


 何やら、煮えきらない態度だ。何かを隠しているのは間違いないようだが……とりあえず、今は深く追及するのは止めておくことにした。

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