一時間ほどゲームセンターで遊んだ後、俺たちは店を出て駅に向かうことにした。
「大丈夫? 世羅」
俺は遊び疲れてぐったりしている世羅に声をかける。
「う、うん……ちょっと張り切りすぎたかも。久々だったし……」
世羅は音ゲーが得意で、本人曰く熱中すると何度もプレイしてしまう癖があるらしい。
そのせいで、体力を大きく消耗してしまったのだ。
ダンス系やリズム系のゲームが不得手な俺は基本的に後ろで応援していただけなのだが、それでも彼女が何度もプレイしているのを見ているうちにこっちが疲れてしまった。
「じゃあ、少し休憩していく? 近くに公園があるから」
凪沙がそう提案すると、世羅は「ありがとう……」と力なく答えた。
「じゃあ、近くの公園で休憩するか」
孝輝がそう提案したので、俺たちは公園に立ち寄り少し休んでいくことにした。
世羅をベンチに座らせると、みんなで雑談を始める。
いつの間にか、辺りはすっかり暗くなっていた。空を仰ぐと、星々が輝いている。
「そういえば……みんな、もう夏休みの予定は決まっているのか? もし暇なら、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……どうかな?」
不意に、孝輝がそんなことを尋ねてきた。
「手伝ってほしいことって……?」
俺と同じように夜空に見入っていた凪沙が、目を瞬かせながら質問する。
「いや、実はさ……両親がレストランを経営しているんだけど、今ちょっと人手が足りていない状況だからアルバイトを探しているんだ」
そういえば、孝輝の家は飲食店を営んでいるんだったな。
こぢんまりとした洋食屋なので、流行っているわけではないが食べるのに困らないくらいには顧客もついているという話を孝輝から聞いたことがある。
「そうなのか? もしかして、急にスタッフが辞めちゃったとか……?」
俺の質問に、孝輝は頷く。
「まあな。それで、どうにも忙しい状況だから人を雇おうと思っているんだが……時給が高いわけじゃないから、どうしても集まりが悪くてさ」
やはり、みんな時給が高い仕事に目がいってしまうのだろう。
俺がそんなことを考えていると、凪沙が「でも……」と口を開く。
「私、アルバイト自体初めてだから力になれるかどうか分からないよ。自信もないし……」
そう答えた凪沙に同意するように、ベンチに座っている世羅も自信なげに苦笑している。
そんな彼女たちの反応を見て、孝輝が慌てたように言った。
「あ……いや、無理なら別に断ってもらって構わないよ。……てか、ごめんな。なんか勝手に話を進めちゃって……」
孝輝の言葉に、彼は人間関係を大切にしているのだと改めて感じる。
不安を感じている凪沙や世羅の気持ちを汲んだ言葉なのだろう。
(よし……ここは、年長者の俺が一肌脱ぐしかないか)
何しろ、本当の俺は二十五歳。過去にタイムリープしているから、みんなより九歳も年上なのだ。それに、伊達にフリーターとして何年も生きてはいない。
アルバイトを転々としていただけあって、数々の仕事を経験済みだ。
そんなわけで、俺は名乗り出ることにした。
「あのさ……もし良かったら、俺が手伝うよ。力になれるかは分からないけど」
「え……? でも、お前『俺は陰キャだから接客は無理だ』とか言ってなかったっけ……?」
「いや、その……俺、いつも絵描いてばかりだからさ。何か新しいことに挑戦したいと思っていたところなんだ」
「なるほど」
慌てて誤魔化すと、孝輝は驚いたような表情を浮かべながらも頷いた。
世羅と凪沙のほうを見ると、何故か二人はそわそわした様子でこちらを見ていた。
(ん……? 二人とも、どうしたんだろう?)
首を傾げていると、彼女たちはほぼ同時に声を上げた。
「私もやりたい! ちょうど、お小遣い稼がなきゃと思っていたところだし……!」
「あ、あの……自信がないって言ったけど、やっぱり私もアルバイトに挑戦してみたいなぁ……なんて」
二人の言葉に、孝輝は驚いたのか目を丸くした。
「お、おう……てか、どうしたんだ? 二人とも。急にやる気になっちゃって……」
孝輝が戸惑った様子で尋ねると、凪沙は慌てたように「え!? ううん! 別に、特に深い意味はないよ!」と首を横に振った。
それに続いて、世羅も「そうそう」と不自然なくらい首を縦に振る。
(……なんか様子が変だな、二人とも)
俺は、なんとなく違和感を抱いていた。それが何なのかは分からないが。
「まあ、人手が増えてくれるのはありがたいよ。じゃあ、三人ともうちの店でアルバイトをしてくれるってことでいいのかな?」
孝輝の言葉に、俺たちは頷いた。