「二人は下の名前で呼び合っているんだね」
物思いに耽っていると、俺と世羅のやり取りを見ていた凪沙がそう言った。
「え? ああ、うん……」
「仲が良くて羨ましいな」
凪沙はそう言いながらも微笑んだ。彼女の表情には、どこか切なさが滲んでいる気がした。
(……?)
俺が上手くリアクションをとることができずにいると、凪沙は何かを思いついたように口を開いた。
「あ、あの……もしよかったら、私も下の名前で呼んでいいかな?」
「えっと……俺だけ?」
凪沙がこちらを見据えてくるので、思わずそう聞き返してしまった。
すると、彼女はハッとした様子で首を横に振る。
「ううん! 勿論、二人ともだよ! ついでに椎名さんとも友達になれたらいいなぁなんて思って……」
(ん? ついでに……?)
やや引っ掛かりを覚えたものの、俺は「そうだったんだ」と返す。
世羅はといえば、少し戸惑っている様子だ。
とはいえ、凪沙自身が仲良くなりたいと思っているのなら特に止める理由もない。
それに……このメンバーは少し気まずいのだ。俺は「これをきっかけに空気が軽くなってくれたら良いな」などと頭の片隅で期待していた。
「えっと……よろしくね! 世羅ちゃん」
世羅は一瞬面食らったような表情をしたが、すぐに笑みを返す。
凪沙が世羅を呼び捨てにできないのは、真面目で律儀な性格ゆえなのだろう。
「うん……こちらこそ、よろしくね! 凪沙」
そのやり取りを見ながら、俺も少しだけ微笑んでみせたのだった。
「でも、湊君が同じクラスで本当に良かったよ。私、人見知りだから全然友達いないし……」
そう呟いた凪沙に対して、世羅が肩をぴくっと揺らしたような気がした。
だが、気のせいだろうと俺は解釈する。
「へぇー、そうなんだ」
「うん……だから、こうして友達とゲームセンターで遊ぶのが夢だったんだよね」
凪沙の言葉を聞いて、世羅が何か言いたげな表情をしていた。しかし、すぐに笑顔になり口を開く。
「そうだったんだ。じゃあ、今日は凪沙の夢を叶えられて良かったよ!」
「うん、本当にありがとう。世羅ちゃん」
そんな二人の会話を聞きながらも、俺はぴりぴりとした空気を感じ取っていた。
(心なしか、二人の笑顔が引きつっているような……)
何故か俺とクラスが同じだということを強調している凪沙と、それに対して過剰に反応している世羅。
女の戦いが始まったような気がして、何となく胃が痛む。
しかし、世羅は何故このような反応を示しているのだろうか? 意外と、友人に対して独占欲が強いタイプだったのか……?