「あそこにいるのって……もしかして、桜庭さんじゃない?」
世羅の目線を辿ると、彼女もまた凪沙の姿を見つけたようだった。
すると、俺たちの声に気付いたのか凪沙が振り返る。
「桜庭さん?」
世羅が凪沙に声をかける。
「由井君? それに、椎名さんも…… どうして二人がここに……?」
凪沙は動揺しているのか、戸惑ったような表情をしていた。
「あ、うん。テスト勉強の息抜きに湊君と一緒にゲームセンターに来たんだ」
世羅がそう答える。
「そうなんだ。……私も、ちょっと息抜きしようと思って」
凪沙はそう言いながらも、どこか硬い笑顔を見せた。
その様子を見て、何となく俺と世羅を気にかけていることが分かった。
「それに、私の家この近くだし……」
どうやら、彼女の家はここから徒歩で帰れるほど近いらしい。
「そうだったんだ。あのさ……もしよかったら一緒に遊ばない?」」
少し気まずさを引きずりながらも、俺は思い切ってそう提案する。
「え……?」
「勿論、嫌じゃなければだけど……」
凪沙は一瞬躊躇うような素振りを見せたが、すぐに笑顔になり頷いた。
「う、うん。こちらこそ、迷惑じゃなければご一緒させてほしいな」
最初はぎこちなかった俺たちだが、クレーンゲームの景品を見ているうちに次第に緊張も解けてきた。
「あ! これ、可愛い!」
世羅が指さしたのは、大きな熊のぬいぐるみだった。
「でも、クレーンゲームって難しいよね」
世羅はそう言いながらも、そのぬいぐるみに熱い視線を送っていた。
「ねえ。私、一回だけ挑戦してみてもいいかな?」
世羅がそう言い出したので、俺と凪沙は彼女の挑戦を見守ることにした。
「よしっ!」
気合を入れるように小さく呟くと、世羅は慎重にクレーンを操作していく。そして、アームがぬいぐるみを掴んだ。
しかし──
「あー、やっぱり駄目だった……」
世羅は残念そうに肩を落とす。
「あとちょっとだったのにね……」
凪沙も悔しそうに顔を歪めていた。そんな彼女たちを見て、俺は口を開く。
「あのさ……もしよかったら、俺がやってみてもいいかな?」
「え?」
実は、俺は過去にゲームセンターで働いていた経験がある。だから、少ない手数で景品を手に入れる方法を熟知しているのだ。
俺は複数あるクレーンゲームの筐体を見て回り吟味すると、その中の一つに狙いを定める。そして、百円玉を入れた。すると、軽快な音楽と共にゲームがスタートする。
(ある程度誰かがやって諦めた状態なら、意外と数百円程度で景品を取れちゃったりするんだよな……)
そんなことを考えながら、アームを操作していく。何度か挑戦し、少しずつ景品の位置を調整していくと──
「あっ! 落ちた!」
「すごい! ほんとに取れちゃったね!」
ぬいぐるみを見事ゲットした俺を見て、二人は感嘆の声を上げた。
俺は、取ったぬいぐるみを世羅に渡すことにした。すると、彼女は驚いたように目を見開く。
「えっ……? そんな悪いよ……!」
「こんな可愛いぬいぐるみ、俺が持っていても似合わないからさ。良かったらもらってほしいな」
半ば強引に手渡すと、世羅は嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう、湊君! 大事にするね!」
その笑顔を見て、俺も思わず口が綻ぶ。
(まさか、ゲームセンターでのバイト経験がこんなところで役に立つなんて思わなかったな)
世羅に喜んでもらえて良かった。これも、過去にタイムリープできたお陰だ。