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第4話 【Sideティナ】ガチ恋!変態ショタコンボス

 女がマフィアのボスなど、笑わせる。

 そうぬかした男どもを、私はこれまでことごとく破滅させてきた。

 私――ユスティナ・キングスコートがティラミス・ファミリーを統べるボスとなって、もう数年になる。

 最初はまとまらなかった部下も、いまや私の温かい家族だ。


「「お疲れ様です、ボス!」」


 広い屋敷を買い取った我々のアジトの廊下を歩けば、誰もが畏敬いけいの念で私を見る。

 もっとも、それは隣を歩くグレゴリー・オズボーンのせいでもあるだろうがな。

 私よりいくつも年上なのに、右腕の立場を選んだこいつに、何度救われたか。


「ボス! 地下で製造しているポーションの取引先が……」

「売り先を変える交渉をしておく。お前達は引き続き密造用の工房を用意しておけ」


 密造ポーションの取り締まり強化への対策なら、既に打ってある。

 廊下を歩きながらでも対応できる程度の話だ。


「近頃他のファミリーがこっちを嗅ぎまわってるみたいですぜ、ボス」

「グレッグ、後で話を聞いておけ。対処はお前に任せる」

「ああ」


 大事になりそうなら、右腕が完璧に処理する。

 私の出る幕がないのは残念だが、ファミリーの面々が優秀な証だ。


「しかし、随分と大胆な策に出たな。まさか貴族の子をマフィアとして迎え入れるとは」


 さて、足を止めずに話をするのも、グレッグとの慣れたやり取りだ。


「俺達を嫌う貴族の身内を引き入れれば、どんな形であれこちらから取れる手段が増える。奴らを完全にいいなりにさせるか、そうでないならさっさと蹴落として、都合のいい奴を後釜にするか。目的に大きく前進したのは、喜ばしいことだ」


 ククク、と笑う右腕の隣で、私は小さく口端を吊り上げるだけに留めた。

 もちろん、私はファミリーの現状維持など考えてはいない。

 目的への道は牛歩だが、求めているのは、我々がいるカポールの街より広い世界への進出だ。

 そのためには、邪魔な貴族は始末するか、従えなければならない。

 グレッグからすれば、エドワードはスキルだけでなく、有用な道具に見えたのかもな。


「私の提案とはいえ、お前は難色を示すと思っていたがな」

「まさか、むしろ気に入った。俺が小僧の面倒を見てやろう」


 眼帯の奥の目で、グレッグが私を見つめる。


「家族に捨てられて、ボロボロになって死にかけて、マフィアに拉致されたのに、そのファミリーに味方するなんてのは大した度胸だ。大バカの命知らずとも言えるがな」


 ほう。

 グレッグがここまで人を褒めるのは珍しい。

 大抵の人間は『無能』『不要』『それなり』としか評価しないこいつが、他人を饒舌じょうぜつに語ること自体が珍しい。

 私の目も、どうやらまだ腐ってはいなかったようだ。

 なら、相応の準備をエドワードにしてやらないとな。


「私があの子の、ファミリー用のスーツを調達しておいてやる。お前は仕事を教えてやれ」

「ティナが? わざわざボスが服を用意するとは、おかしな話だな?」

「嫉妬しているのか?」

「冗談。貴様に好かれた小僧に同情しているだけだ」

「……フン」


 私にジョークを言ってのける男は、世界広しといえどこいつぐらいだろう。


「『永遠の仕立屋メイクカバーマン』に依頼を出しておけ。エドワード……エドの髪と目の色、目に見えない傷跡、個人に繋がるものはすべて奴のスキルで変えておくんだ」

「かしこまりました、お嬢様ボス


 わざとらしく深々と頭を下げて、グレッグは反対側の廊下を歩いていった。

 そのくらいのひょうきんさを部下に見せてやれば、お前と対面して怯える者も、少しは減るだろうに。

 『鉄面皮てつめんぴの怪物』、と陰で呼ばれることも減るぞ。


 さて、私は私で、別の要件がある。

 アジトの一番奥にある私の部屋には、いつも女性構成員の護衛がついている。

 いきなり部屋に入ってこようとする大バカ者を抑えるのは、彼女の役割だ。


「30分だけ、誰も入れるな。ノックもするな。いいか?」

「は、はい!」


 こう命令して、誰かが勝手に駆け込んできた経験は一度もない。

 私は部屋に入り、扉を閉めた。

 ベッドを含めた必要最低限の家具。

 カーペットは赤。

 本棚には多種多様な本。

 どれも最高級品である点を含め、なんとも面白みのない部屋だ。


 だが、これでいい。

 私のひとりの時間には、趣味を阻害しない部屋だけが必要だ。


「……ふう」


 服を脱ぎ捨て、小さく息を吐き、キングサイズのベッドに倒れ込んで――。






「――はああぁぁ~~ん! かわいすぎるりゅううぅぅ~~~~っ!」


 ――私自身を解き放った。

 そうだ、これだ。

 これが、私がエドワードをファミリーに迎え入れた最大の理由だ。


 私は、自分よりずっと年下で愛らしい男の子が好きなのだ。

 枕をあのエドだと妄想して、舐め回すくらい好きなのだ。


「性癖どストライクの子を拾って育てられるなんて、ラッキーすぎ♪ 素直ショタさいこぉ~~~♪ 他の男達なんかと違ってぇ、ちっちゃいのに頑張ってるところもしゅき……」


 ああ、かわいい。

 背伸びしてキリっと見つめてきた目。

 柔らかいほっぺ。

 ほおばりたい。

 全身くまなく舐めさせろと命令したい。


「あっちょっと食べたくなるっ♪ 指とかもぐもぐちゅっちゅしたぁ~いっ♪」


 ちらりと窓に映る顔がひどいさまなのはしょうがないだろう。

 年下の子がかわいいのが悪い。


「は~~舐めたい、吸いたい、しゃぶりたい! 服とか着替えさせたいぃ~~っ!」


 涎で枕がぐちゃぐちゃになるのも構わない。

 あのエドをねぶっていると思うと、舌が止まらない。

 自分がどんな顔をしているのか容易に想像がつくが、今の顔は誰にも見せられない。

 第一、私がこんなに彼に欲情しているのは、エドにも原因がある。


「あっそうだ、何でもするって? エドワードきゅん、何でもするって言っちゃったぁ? だめでちゅよおぉぉ~、かわいこちゃんがそんなこと言ったら……わる~~いおねえたんにパクっとたべられちゃいまちゅよおぉ~~~~♪」


 運命の出会いを確信した私の前で、何でもすると言ってのけたのだから。

 皿の上に乗った高級料理が、食べてくださいとおねだりしたなら、断る理由がない。


「じゃあじゃあ……さっそくもーそーでいただきましゅっ♪」


 妄想とは人間のすばらしい産物だ。

 何をしても、エドワードをベッドに押し倒しても誰にも迷惑をかけないのだ。


「ピピーっ! そこのイケショタくん、逮捕でしゅっ! おねえたんにしゅきしゅきビームを発射した罪で、私のお婿むこさんにしますっ! ベッドで取り調べしちゃうぞぉ~♪」


 こうして枕に妄想と欲望をぶつけているだけ、ありがたいと思った方がいい。

 もし本当にエドワードから誘惑して来れば、私は内に秘める獣を解き放つだろう。


「えっ? おねえたんは結婚してるのって? してにゃいぞ~……なぜならエドきゅんがおねえたんのラブラブダーリンになるからだ~! べろべろべろぉっ!」


 ちなみに、私は今年で25になる。

 同年代の男は愛せないし、年上など論外。

 グレッグと私が恋仲だとうそぶいているやからを、いつ焼き払ってやろうかと思っている。

 その分のストレスは、こうして激しい妄想で発散しているのだ。


「あーっ♪ しゅきっ♪ すきすきしゅきしゅき……うっ!」


 だが、いつまでもこうして自分を開放していたいが、そうはいかないのが私である。

 達するのと同時に、マフィアとしての誇りが頭の中に戻ってくる。


「……ふう」


 のそりとベッドから立ち上がり、賢者のような気分でベッドから離れた。

 口元と枕は唾液まみれだが、今の私は他でもないティラミス・ファミリーのボスだ。


「さてと。調達させた服には、私の匂いをしみこませておくとしようか」


 冷静になったのなら、ここからは仕事の時間である。

 私は下着姿のまま椅子にかけ、机の上に山積みになった書類と向き合った。


 いつか本当に――エドワードと真剣なお付き合いをしたいと願いながら。

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