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070 明朗

七〇 明朗


 遺伝子組換え作物――英語の頭文字を取ってGM作物とか、ただ単にGMOと表記されることもあるが、日本で収穫されているもののうち、代表格にはダイズやトウモロコシ、馬鈴薯、また食用以外では自然界に存在しない青いバラなどが有名であろう。

 古くから知られている形質として、特定の除草剤への耐性を持たせ、ほかの有害な植物を効果的に取り除いたり、害虫に強くしたり、特定の栄養素を多く含有させたりなどがある。そうして利便性に秀でた特徴を付与し、遺伝子組換え技術は作物の収量を大きく向上させてきた。


 だが、そういったGM作物は、多く、安定した収量を見込めること以外にも懸念もあった。

 まず、GM作物に除草剤への耐性が組み込まれていた場合、周辺の雑草などに「なんらかの拍子」で除草剤耐性の形質が移るのではないかという疑問は、ごく初期のうちにあった。除草剤耐性を獲得した雑草は、一株だけにとどまらず近隣の農場へ広がるかもしれないし、また別な種類の除草剤耐性が付与されたGM作物と接触するかもしれない。これを長期にわたり繰り返していくうちに、どんな除草剤でも枯れない「スーパー雑草」が出現するのではないか――と、一部にとどまらない研究者、研究機関が指摘している。


 また、遺伝子組換え技術と類似した技術――ゲノム編集技術というものがあり、しばしば双方混同され、一般市民や家庭から誤謬にもとづく危機感を抱かれた。双方の違いを簡便に説明するとこうなる。

 遺伝子組換えはその種が本来持つ遺伝子を、任意の場所で切断し、置き換える技術にすぎない。つまりはかねてより存在した突然変異を放射線などで効率的、選択的に生み出し、利用する技術である。

 一方のゲノム編集は、さらに一歩切り込んだ技術だ。もともとその種が持たなかった――その種がいくら交配されても獲得しえない形質を持つ――遺伝子を、外部から挿入する技術で、自然界では起こりえないということが遺伝子組換え技術と大きく異なる。

 高橋ゼミでは双方の技術を理論から多角的に学び、臨地実習を経てGM作物、中でもトウモロコシなどの穀物や、馬鈴薯などのイモ類を中心に編集を産学、または産官学共同で行ってゆく――。


 ――と、ざっとこのような内容が高橋ゼミの資料に記載されてあった。集団面接までの休憩時間に学生らは黙々と読み込む。

「ねえショウちゃん。この中からテーマが出てくるの? こんなん、覚えきれないよ。しかもこれ、後から面接に呼ばれる子の方がぜったい有利じゃん」

 と、横山は頬を膨らませる。

 わたしはといえば、大体の内容は前々から把握していたので特に問題はなかった。

「大丈夫なんじゃない? そこまで露骨なことはしないよ、あの教授。必要なのは記銘力より、問題解決とか、システム的思考だろうし」

「へえ。なんかショウちゃん、頭よさそうだね」

 と、横山はストレートな感想を述べ、「でもそれ、メリットもデメリットもあるんだよね」と続ける。

 怪訝な顔をするわたしに横山は「あはは、深い意味はないよ。ふたりで最強のトウモロコシ育てられたらいいね」と笑い飛ばした。


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