三二 混迷
それは非常にシンプルなことで、わたしは理解していても、どうすればよいのかは経験不足で分かりようのない問題だった。
人が色恋沙汰で揉めるのは見たことはある。が、自分が当事者となるのは初めてだった。ぐちゃぐちゃになった練習から家に帰る。
吉川は平松とそういう仲だったのは、今までの様子からなんとなく推測はできた。そこへきてのわたしだ。
わたし、勝ったのかな。ベッドに横になり、天井を見上げて思った。同時に、その勝利が自らを利することはなにもないということも感じていた。
わたし、勝ったのか?
人を苛立たせた。結局、指揮も途中でコンサートマスターに代わり、吉川は始終いらいらしながらバッグの中から錠剤のようなものを飲んで、先に帰ってしまった。鎮痛剤かもしれない。生理中だとしたらもろもろの合点が別なところへつくのだが。
振り返るに、高校の吹奏楽部でも、入学試験の時も、自分の代わりにだれかひとり不合格になり、さらには自分がより上位に位置するようにと願った。すなわち、これまで自分以外の人間の不幸は、わたしの勝利を意味し続けていた。つねづねそう思っていたが今、自分の勝利——と仮定して——のおかげでこんなにもつまらない気分になっていた。やけ酒でも飲んでしまいたかった。
つまらない。
くさくさした気分のままシャワーを浴び、ベッドへ入る。なかなか寝付けず、しまいに苛立ちから「くそ」と天井に向かって罵言を放つ。「なんでわたしなのよ」
知らないうちに寝入った。朝起きたときの倦怠感は久方ぶりのものだった。つまり、学校に行けない、行きたくない気分になっていたころの。