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第六章 その6

第六章 その6


「確かに、自殺にしては不可解な点が多いのに、自殺として処理してしまったのは我々警察のミスだ。ここにいる榎本さんが自殺ではないと主張してくれない限り、この事件は永久にお蔵入りするところだった」

「朝妃が……」


 柊慈が朝妃の方を一瞥すると、思わず朝妃は目線を逸らした。


「でも、オレがやったっていう証拠はないだろう」

「榎本さん」


 突然、笹本が朝妃の名前を呼ぶ。


「は、はい」

「先ほどの電話で君が伝えてくれた内容を彼に話してくれないか。君が木下家に到着して、脱衣所に向かった時、浴室のマフラーはどうなっていた?」


 思い出したくない光景を朝妃はもう一度思い出す。胃の中のものが逆流しそうだったが、必死でこらえる。


「脱衣所に真っ二つに切られた状態で落ちていました。二つのうちの片方が固結びになっていて、柊慈はほどけなかったからキッチンバサミで切ったと言ってました」

「そう、彼の証言通り、木下家のキッチンバサミからはマフラーの繊維が検出されている。それで我々は団野くんの言う通り、浴室の洗濯用ポールにマフラーを結び付けて首を吊っているところを発見し、慌てて切った。という供述を信じて自殺だと判断してしまった。しかし、我々と違い団野くんと付き合いの長い榎本さんはそれが嘘だと気付いてしまった」


 笹本が朝妃の方を向いた。


「はい……。柊慈は弓道の矢を射る時は右利きなんですが、それ以外はすべて左利きなんです。お箸を持つのもボールを投げるのもすべて左手です。固結びをする時、右利きの人と違って柊慈はいつも左側の紐を上から回して結ぶ癖があります。花蓮の家で……脱衣所で見つけたマフラーは左側が上になる結び方でした。花蓮は右利きで、私と同じように右側の紐を上から結ぶのを知っています」


 朝妃は今朝見た夢の内容を思い出した。あの遠足の時、ブナの木に登っていた柊慈は、たまたま木の枝の間に挟まっていた誰のものかわからないボールを左手で投げ落とした。そして、木から降りた後、確か朝妃の靴紐がほどけているのを発見して結んでくれた記憶がある。結び方はいま言ったように、左側の紐を上から回していたのを覚えている。


 幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた朝妃だから分かる、柊慈と花蓮の紐の結び方の違いを指摘された柊慈は唇を嚙んだ。


 朝妃はこの部屋に来た時から気になっていたことがあった。部屋の奥の壁にいつも立てかけている、あれがない。そうだ。十六日に四人が集まった時にもなかった。


「現在、榎本さんが発見したブナの木に開いた矢の跡と、君の持っている矢の先端が一致するか確認させてもらっている」

「……」


 笹本は暑くなったのか上着を脱いで話し続ける。


「つまりはこうだ。二月十六日。君はバレーボール部の練習が始まった後、学校の駐車場へ赴き、山口……いや宇都宮がいつも乗っているフォレスターのタイヤにボンドを塗り、さらに松脂を車体の裏に塗りつけた。この際、きっとボンドを助手席のドアの隙間にも塗ったんじゃないか。もしかしたら後部座席のドアにも塗ったかもしれない。そして一旦帰宅した。君は、バレーボール部の練習が九時半から五時までだと知っており、さらに土曜日は必ず練習が終わった後に彼が金魚に餌をあげるため、職員室へ行くことも知っていた。君の友達の陸山翠や杉愛奈未は夏までバレーボール部にいたからいくらでもそういう情報は聞き出せる。練習が終わった五時ごろに、木下花蓮を追いかけるふりをして、玄関を出た君は家の裏手に周り、倉庫に置いてあった竹の橇で一気に斜面を滑りおりた。この際、弓矢を持っての移動だから大変だったろうが、運動神経の良い君ならできるだろう。そうやって学校へ到着した君は、覆面か何かをかぶり正体がばれないようにして職員室から出てきた宇都宮を追いかけた。弓矢は一旦どこかに隠しておいて手には刃物でも持っていたんじゃないか。慌てた宇都宮は逃げる。君は雪の上に足跡が残らないように校内で彼を追いかけながらうまく駐車場の方へと誘導していった。そして自身の車に乗りこんだ宇都宮は慌ててエンジンをかけて、アクセルを踏み込んだ。しかし、駐車場から正門に辿り着くには必ず左折をしなければならない。

 ハンドルを回したが、スノータイヤの機能を失った車はスリップして正門近くの石垣に激突した。そこですかさず、君は車からある程度離れた場所で火のついた矢を射った。車の車体下辺りを狙ったのだろうな。火が引火した車から逃げようとする宇都宮だが、運転席側は石垣にぶつかっていて開かない。恐らく、助手席の扉を開けようとしただろうが、強力な接着剤で貼りついていてそう簡単には開かない。さらに、車の窓ガラスやフロントガラスにも細工をしたんじゃないか。ガラス破りの防止フィルムなどを貼っておけば、ガラスをたたき割ることもできない。この辺りのものは、ホームセンターや、ネットなどで容易に入手できる。逃げ場を失った宇都宮はパニックのまま車の中で焼け死んだ」


 朝妃は息をもらす。そこまで用意周到に殺人の計画を立てていた自分の友人が信じられない。


「そして、ここから証拠隠滅と足跡の痕跡をわからなくさせるため、君は第二の火災を起こす。弓道の弓は二メートルほどあってとにかく目立つ。そして斜面を滑り降りた竹の橇も見つかる前にすべて消去したい。君は、それらを燃やすことにした。きっと竹の橇は最小限のサイズの物を作ったのだろう。もしくは、分解できるようにのこぎりや釘抜きを持っていた可能性もある。そののこぎりを手に持って山口を追いかけたのかもしれないな。少なくとも弓は切断したはず……」


 笹本が話している途中で朝妃が口を開いた。


「おじいちゃんからもらった、竹の弓……」


 朝妃は思い出した。柊慈が小学生の頃、祖父から竹弓をもらったと話していたことを。弓道の弓は昔ながらの竹弓、そしてカーボン素材やグラスファイバー素材もあるという話を彼から聞いた。その時の彼の目はキラキラ輝いていたはずだ。


「そう、竹の弓と竹の橇だけ燃やすとそれが証拠だと自ら示しているようなものだ。そこで君は、余分なものを色々燃やした。弓と橇以外の竹、シルク素材のシャツや綿素材の靴下、そして、ペットボトルやビニールなどの不燃品、さらには一番怪しいUSBメモリースティック。燃え跡に鉄の釘がたくさんあったのも、きっと橇を解体した際の釘と混じって分からなくするためだろう。油は至って普通のサラダ油を利用したようだな。それでも竹と油だとよく燃える。そして、第二の火災に気が付いた消防団や町の人が裏門の方へ駆けてきて、さらには消防団の人が裏門から一番近い小学校の校舎の職員用通用口から中に入って消火器を摂りに行った。なんせ、裏門の外の道はとても細い。消防団の消防車も化学消防車も入ることができない道だ。町の人たちがそういう行動をするであろうことまで君はすべて読んでいたのだろう。校舎内のどこかに身を潜めておいて、みんなが消火活動に必死になっている隙に、何食わぬ顔で現れる。野次馬たちもたくさんいたようだから、君がいても消防団の人たちは何も思わないだろう。そして、警察が到着するまでの時間もある程度読んでいた。我々が到着した時点では既に裏門付近には多数の足跡があって、どれが真犯人の足跡かわからない状態になっていた。見事だよ」


 その時、笹本のズボンのポケットから着信音が鳴った。


「はい、はい。了解だ、ありがとう」


 笹本が通話終了のボタンを押す。


「ブナの木に残った矢の跡と団野くんが持っている矢の跡が一致したそうだ。また、その近辺の雪の中から使用済みの消火器が二本発見された」


 柊慈は、目を閉じた。


「……くそ……」

「柊慈……」


 朝妃はどんな顔をして自分の大切な友人を見ればいいのかわからない。


「宇都宮は、裕兄ちゃんの言うとおり。オレの姉ちゃんを襲った奴だ」

「どうしてそれが分かったんだ?」


 羽鳥は自分の知っている正義感に溢れた柊慈の姿と、いま自分の前にいる男が一致しなくて困り果てていた。


「プールの時間にさ……。あいつ、顔も整形していたし、太ももの三つ並んだホクロも除去してたんだけど、もう一つ、警察には話していない記憶があって」

「何だ?」


 羽鳥も暑くなったのかコートを脱いだ。


「足の裏にもホクロがあるんだよ。右の足。足の裏ってかなり珍しいだろう」

「確かに……」

「でもそれだけで?」


 羽鳥は再び額の汗をハンカチで拭う。


「いや……あとは裕兄ちゃんの言うとおり声だ。プールの授業で右足の裏にホクロがあるのを発見したオレは、まさかと疑った。あいつがこの町に帰ってきたのかと思って背筋が凍ったよ。しかもオレの担任教師なんだぜ。でも人違いかもしれない。そう思って、昔、宅配便を装った時のインターホンの音声といまの奴の声を録音して声紋判定をお願いしたんだ。お金は母親のたんす貯金から勝手に使った。結果が返ってきて身震いがしたよ。オレの姉を襲ったやつが何喰わぬ顔で教師として働いてるんだぜ……」


 朝妃は山口、いや宇都宮の姿を思い出す。気さくで明るい、話しやすい先生だと信じ込んでいたのに、結花を襲った犯人が自分の担任教師だったなどとは微塵にも思わなかった。


「どうして警察に連絡しなかったんだ⁉」


 羽鳥の言葉に柊慈は鋭い目つきをする。


「警察に捕まったところで強姦では死刑にはならない。それならオレがあいつを葬ってやろうって」


 鋭い眼光の中に、まだ少年のような幼さを一瞬垣間見たような気がするのは気のせいだろうか。と、羽鳥は一瞬たじろいだ。


「それにしても、どうしてわざわざ車に閉じ込めて焼死させるような面倒なことをしたんだ?」


 柊慈の鋭い視線にも気後れしない笹本が淡々と質問する。


「……刑事さん。さっきの推理に一部追加するなら、車を燃やすのには松脂だけではなくて、フラッシュコットンも使用した」

「フ、フラッシュコットン?」


 羽鳥はそれが一体何なのか思い浮かばない様子だ。


「マジックなどに使う一瞬で燃える綿のことだな」


 笹本の言葉に、羽鳥は「ああ」と返答する。


「車全体に一瞬で火を回らせるために、あちこちに挟んでやったよ」

「なるほど。フラッシュコットンなら燃えカスも残らないからな。全く、今時はネットで何でも手に入る時代だから恐ろしい」


 朝妃もそういえばテレビか何かでフラッシュコットンが一瞬で燃え尽きるのを見たことを思い出した。


「それはわかったが、質問の返事にはなっていないぞ。どうしてそこまでして焼死にこだわったのだ?」


 笹本が柊慈の目をじっと見つめる。しかし、柊慈は口を開こうとしない。


「か……花蓮は?」


 朝妃は必死で声を絞りだした。柊慈が朝妃の方を向く。その目は朝妃の知っている頼りがいのある男の目ではなかった。暗く冷たい殺人鬼の目。


「オレと花蓮は付き合っていた」

「えっ……」

「花蓮に告白したんだ。中学二年の夏だったかな。絶対断られると思っていたらあいつが……いいよって。でもあいつは……」


 柊慈が頭を抱えた。


「浮気した。相手はあの宇都宮だ。宇都宮がこの学校にやって来たのは花蓮を狙ってだ」


 想像を絶する話の展開に朝妃と羽鳥は息をのんだ。笹本は相変わらず表情を変えない。


「花蓮が東京にいた頃の友達に会うために上京した時に奴と出会ったそうだ。まだ中学一年の時。美しい花蓮に惹かれた宇都宮の方から声をかけたらしい。その後、宇都宮は何食わぬ顔で花蓮のいる町に引っ越してきやがった。そしてまんまと彼女の担任教師になり、彼女を狙っていた」

「信じられない……」

「信じられないけど本当の話だ。宇都宮は花蓮がモデルを目指していることを利用した。オレと付き合ってくれたら高校にあがった時に芸能事務所の社長にお前を推してやるとか言ったらしい。芸能事務所の社長と面識があるなんて嘘に決まっている。でも花蓮は宇都宮の言葉を素直に信じて応じた」

「……」

「花蓮は山口と肉体関係を持っていた。実は花蓮は妊娠したんだ」

「えっ……」


 声にならない声が喉の奥で詰まり、朝妃はひどく息苦しく感じた。


「結局流産したんだけどな。ほら、十二月に一週間ほど花蓮が体調不良で休んでいただろう」


 そういえば、たしかにそうだ。と朝妃は思い返す。


「あいつはオレの姉に手を出しただけではなくて、花蓮のことも騙して、しかも子どもまで作りやがった。許せなかった。宇都宮も許せないけどオレのことを裏切った花蓮も許せなかった」


 柊慈が自分の拳を強く握る。その剣幕は朝妃がいままでみたことのない彼の姿だった。


「でも、何も花蓮ちゃんまで殺さなくても……」


 羽鳥がそう言うと、苦悶の表情のまま柊慈が羽鳥の方を向いた。


「裕兄ちゃんの言う通り、殺すつもりなんかなかった……。あの日、オレは花蓮が心配で家に行ったんだ」


 午前十時ごろ、木下家の前で柊慈は花蓮にメッセージを送った。


「家の前にいる」


 すると、花蓮がそっと玄関のドアを開ける。柊慈は黙って門を開け、玄関から家の中へと入った。千夏がパートに出ている時間だということは知っていた。


「花蓮、大丈夫か?」

「何が?」

「何がって……。お前、昨日オレの家を去ったじゃないか」

「ああ……」


 花蓮はあまり表情を変えない。柊慈をリビングに通して、キッチンの食器棚からポットを取り出し、お湯を沸かし始めた。


「大丈夫。みんな私に気を遣ったんでしょ」

「菜子はあんなこと言ってたけど、気にすることはない」

「気にしてないよ」

「嘘だ。本当は気にしているくせに」


 柊慈にそう断言されて花蓮は少しムッとする。


「どうせ私はこの町の人じゃないから」


 花蓮が鍋に沸かしたお湯をポットに注ぐと、ダージリンの香りがふわりと広がった。


「そんな言い方するなよ」

「だって本当のことじゃない」

「お前はこの町に来て六年だ。もうすっかりこの町の住人だよ」


 柊慈のフォローにも表情を変えない花蓮。


「……正直、こんな田舎町は嫌だ」

「それは本音か?」

「もうすぐ東京に行ける」

「東京は確かにオレら田舎者にとっては憧れの町だけど……」

「昨日……あの人死んだんでしょ?」


 花蓮が紅茶を注ぐ手を止めて柊慈の目を捉えた。


「あの人って……。知っているのか」

「うん、昨日大騒ぎになっていたから」

「そっか……」


 頭を垂れる柊慈。


「悲しくないのか?」


 柊慈の質問を聞いているのか聞いていないのか、花蓮は無言で紅茶に砂糖を入れてスプーンで混ぜる。


「……悲しいよ」

「それは担任教師としてか?」


 柊慈の視線と花蓮の視線がぶつかり合った。


「……わかんない」

「なんだそれ。あいつは花蓮を騙していたんだよ」

「それ何度も聞いた」

「あいつはお前の体を求めているだけだ」


 花蓮は視線を外し、黙ったまま紅茶のカップを柊慈の前に置いた。


「無視するなよ」

「してない」

「ちょっとは罪の意識を感じてくれよ。オレのことはどうでもいいのか?」

「そんなことを言うためにここに来たの?」


 花蓮のチクチク刺さる言葉に耐え切れなくなった柊慈は机をバンと叩いて激昂した。


「何で裏切った⁉ 花蓮はオレの彼女だ! あいつと関係を持つならオレと別れてからにしろよ‼」

「もう、死んじゃったんだから。もう……死んじゃったんだから……」


 花蓮の目から涙が一粒、二粒こぼれ落ちる。それを見た柊慈は動揺した。


「なっ……あいつのこと、そんなに好きだったのか……」

「わかんない」

「何だよわかんないって。はっきり言えよ!」

「最初はっ……最初はモデルになりたくて……夢を叶えるためにはこの人の力が必要だって思った」

「芸能事務所の社長と知り合いってか。だからそれが嘘なんだって」

「どうして嘘って決めつけるの⁉」

「だってあいつはっ……! あいつは……」


 柊慈は言葉に詰まる。


「でも……だんだん先生が必要になって、会えないのが悲しくて……」


 再び花蓮の目から涙がこぼれ落ちる。柊慈は思わずへたりこんだ。


「あいつは、花蓮を妊娠させて責任も何も考えちゃいない。花蓮のことをちっとも大切にしていなかったんだぞ」

「それでも……好きだった」


 この言葉で柊慈の心にどす黒い何かが渦巻き始める。ダイニングの椅子から無言のまま立ち上がる柊慈。隣の椅子にかけてあった花蓮お気に入りのバーバーリーのマフラーを手にとる。


「柊慈……?」

「だったら、どうしてオレにそれをもっと早く言ってくれなかった。どうしてオレと別れなかった」

「柊慈……ごめん」

「いまさら謝ったって遅い」


 目を見開いた柊慈に花蓮は思わず怯える。その目はいつも優しくて頼りになる彼とは全く別人であった。


「あいつと同じところへ連れていってやるよ」


 柊慈はマフラーを両手で持ち花蓮に近づく。


「な、なにをするの⁉」

「黙れ」


 柊慈は花蓮の首にマフラーを巻き、思い切り両手に力を入れた。


「ぐっ……くる……し……」

「お前がオレを裏切った。お前のことを守ろうと思ったのに。誰よりも大切に思っていたのに……‼」


 柊慈の目から大粒の涙が流れ落ちる。


「しゅ……う……」


 最初は抵抗していた花蓮の腕から次第に力が抜け、やがて力なく体の横にずり落ちた。


「花蓮……花蓮…………愛してた」


 涙が止まらない柊慈。やがて花蓮の体から完全に力が抜け、床にずるりと横たわる。

 何分が経過しただろうか。完全に我を失っていた柊慈は自分を取り戻す。


「花蓮? 花蓮っ‼」


 柊慈はぐったりした花蓮の体を揺さぶる。


「花蓮っ、おいっ‼」


 彼女からの反応は返ってこない。


「オレ……いま、何をした……?」


 柊慈は自分の両掌てのひらを見た。この手がやったのか? この手が彼女を殺したのか? 訳がわからなくなった柊慈は絶叫する。


「ああああああああああああああああっ!」


 大粒の涙が止まらない。それから何分泣き続けたか。彼は無の状態に陥った。無表情のまま花蓮の遺体を風呂場に運んだ。

 ここで捕まってはすべてが無駄になる。昨日、やっとあいつを死に追いやったんだ。あの憎き男を葬った。何とかしなければ。彼は必死で考えた。そして遺書を偽造することを思いついた。


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