第四章 その3
菜子の家は田園風景が広がる地域のど真ん中に二軒ある家の一つだ。もう一軒はゆき婆の家である。
菜子の父親は稲作農家だが、雪が積もる冬の間は町にある菜子の叔父が経営する工場の手伝いをしている。
雪景色の中にポツンと忘れられたかのように立地している二軒の家のうち、新しい方が相模原家である。ゆき婆の家は、元々かやぶき屋根だったものを改築したため、天井が非常に高い。一方の相模原家はどこにでもあるような木造住宅である。
「足元気をつけろよ」
柊慈の言う通り、道と側溝の境目が雪でわからなくなっているため、うっかりしていると側溝へ落下する。どこまでが田んぼでどこまでが道なのか。四人は出来る限り、車の
「ピンポーン」
インターホンを押すと、「はい」と菜子の母親が応答した。
「あ、すみません。オレ柊慈です。あと翠と愛奈未と朝妃もいます」
「あら……。ありがとう、もしかして心配して来てくれたのかしら」
「ええ。菜子さんにお会いできないかと思いまして」
リーダーの柊慈がそう話すと、インターホンの向こうで
「そうね……ちょっと声をかけてみるわね。菜子―」
朝妃は二階の部屋の窓を見る。菜子の部屋は東側の角だが、カーテンがかかっており中の様子は伺えない。
しばらくすると玄関の扉が開いて、菜子の母親が顔を出した。
「ごめんなさいね。出たくないって……。せっかくみんな来てくれたのに」
「そうですか。いえ、大人数で押しかけてすみません」
「いえ、ありがとうね」
柊慈は息を大きく吸って
「菜子―っ! 学校来いよ! 待っているからな!」と叫んだ。それに続いて愛奈未も「菜子、心配しているよ。早く学校へ来てね!」と叫ぶ。
朝妃は、何とかこの事件が早く解決しないだろうか。と頭の中で情報を整理していた。
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いまは雪がやんでいる。女はカーテンを開けてそっと外の様子を伺った。人影はない。
押し入れに押し込んでいるブーツを履き、窓からひらりと外へ出た。北風が吹くなか、女は一目散にある場所へ向かう。
町の中心から少し離れた場所にある日本家屋の前に、小さな小屋が立っている。その小屋には赤いビニール製の
女はポケットから小銭を取り出したところで思い留まった。体がガタガタ震える。寒いからではなく、禁断症状が出ているのだ。女は目を閉じて、ある言葉を思い出し、自分の着ているパーカーの袖をまくった。幾つもの黒い跡が目に飛び込み、彼女はごくりと唾を飲んだ。
一分ほどそこで立ち尽くしていたが、諦めてその女は来た道を戻り始めた。