第三章 その7
家に帰ると、朋子が暗い顔をしてため息をついている。
「朝妃……本当なの? 本当に花蓮ちゃんをいじめていたの?」
やはり自分の母親も知っているのか。朝妃はホットレモンを作り、冷たくなった指先をマグカップで温める。
「いじめてなんていない。でも……」
「でも?」
「花蓮が亡くなる二日前に、菜子が花蓮の悪口を言って、それを花蓮が偶然聞いてしまって……。その次の日に、柊慈の家に花蓮を除く五人で集まっていたことを花蓮が知ってしまった」
「どうして、花蓮ちゃんを誘わなかったの?」
「それは……。花蓮に謝るように菜子を説得するために」
朝妃は自分の発言がすべて言い訳のような気がしてならなかった。
「そうだったの……」
「町の人に何か言われた?」
朝妃の質問に、朋子はもう一度深いため息をついて、家の固定電話の方に目をやった。
「花蓮ちゃんのお母さんから電話があって……。うちの子はクラスメイトに殺されたって……」
朝妃は自分のせいで家族にも迷惑をかけていると思い、胸が痛かった。
「お母さん、今からしっかり謝ってくるわね」
朋子はそう言って、和室で黒いスーツに着替えて、花蓮の家へと向かった。
その後ろ姿を申し訳ない気持ちで見送る。
花蓮は自殺じゃない。誰かに殺されたんだ。と加害者の私たちがいくらそう叫んだって町の人の耳には届かない。こんな状況で真犯人を探そうなんてとんでもなく無謀な気がした。