「お疲れさまでした。」
私は荷物をまとめて園を出ていく。保育の時間は18時まで。その後に今後のクラスにおいての行事の準備などもある。気づけは19時を回っている。
そして荷物の中にはみかちゃんからのメモが。
『せんせいあしたはスマホつくってね。』
こういった子どもたちのリクエストが来ることだって少なくない。こうやって時間外労働ってのを越えることが多い。
「ただいま〜。」
「薫、おかえり。」
部屋にいるのは私の彼氏の廉。ソファに深く座り込んでスマホをいじっている。
「薫、今日のご飯何?」
「チャーハンでいいかな?」
「チャーンでいいよ。」
《…チャーハン”で”…ね。》
私は急いで準備を進める。食事を準備して一緒にごはんをする。
「…あれ?今からTVの時間だ。つけてくれ。」
「うん。」
TVをつけると、ハハハッと横から笑っている。私はあんまり好きではないお笑いを見ながら時間を過ごしている。
「…ねぇ廉、このあとは…。」
「…薫、今日の夜しようぜ。」
「え?今日?」
「いいだろう、そういう気分だし。」
私の頭の中にみかちゃんからの手紙が。
「あのさ…、私、仕事で。」
すると、廉は机に強く拳を落とした。身体が硬直した。
わたしの頭の中に昔の記憶が。今の様子と同じような拳が落ちる姿が。
『…俺の言うことが聞けねぇのか!?』
そのあとに、私は廉に答えた。
「…そ、そだね…急いで準備しよう。」
そそくさと食事を片付けていく。
《…こうして…私は…言うことを聞けばいい。それが一番いい。》
私は自分の記憶と目の前にいる満足そうな廉を見て自分に言い聞かせる。
きっとこの先に幸せがあると信じ続けている。
お風呂を終えて、夜になると廉との時間を楽しむ。
しっかりと身体を使った深夜に満足そうな廉の横顔を見ながら、私は画用紙を広げて、みかちゃんの手紙を見てスマホを作る。
本物に見えるような大きさに、よく似たアプリに、色鉛筆で彩りを加えていく。それだけでも1時間、2時間はかかってしまう。
「…子どもには…幸せになってほしいの。」
私は自分の記憶に言うようにつぶやく。
『…子どもなんて作るんじゃない!!俺の言うことが聞けないのか!?』
記憶にいる父親が拳を落とすに震える小さな自分が居た。
それを頑張って首を横に降って振り払う。
「私だって…幸せになりたい。」
残り短い睡眠時間を使って翌日を迎えるのだった。