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第78話 サラへの手紙

 収穫祭の翌日はみんな、のんびりとするのが習わしである。そのため、収穫祭の料理は大量に準備され、残った物をお弁当にして翌日食べるのだ。だから今日ばかりはみんな行動を開始するのはお昼前である。

 しかし、サラはいつものように日の出とともに起き出していた。

 小麦の収穫と収穫祭のためにできなかった畑の世話をしていた。冬野菜である白菜やほうれん草の育成具合を確認する。

 幸いなことに白菜は豊作になりそうだ。漬物にすれば、保存も効く。

 薪はエリオットが暇を見て、割ってくれたおかげでひと冬くらい楽に越せそうだ。ペコ用の干し草も十分にある。心配なのはプリンの分だ。蜂蜜とドングリを用意しているが、どのくらい量が必要か、冬眠をするのかよくわからない。

 そんなことを考えながら、朝の仕事を終えて家に戻ると、エリオットが一人で椅子に座っていた。その表情は何やら厳しい表情をしていた。


「おはよう、どうしたの?」

「ああ、おはよう。ちょっとな……」


 エリオットにしては歯切れの悪い返事にサラは不思議に思いながらも、エリオットが言いにくいのなら言い出すまで待とうと考えた。


「朝食にしましょうか。と言っても昨日の残り物だけどね」

「あ、ああ。そうだな……いや、その前に話しておかなければならないことがあるんだ」

「なに?」


 サラがそう言った時、玄関がノックされた。


「あっ、ちょっと待って」

「ああ」


 サラが玄関に出ると、そこには手紙を持ったロックがいた。

 他の村や都市から来た手紙は行商人が村長の家に持って来て、そこから各家に渡される。送る時は逆である。ただし、急ぎの場合は配達業者に頼むことも可能だ。

アリスが王都に帰ってから、何度か手紙のやり取りをしている。

 だから、アリスから手紙が来たと思い、サラは笑顔で手紙を受け取った。しかし、送り主の名前を見たサラの顔から血の気が引いていた。

 それを見たロックが心配そうに声をかけた。


「どうしたんだ。あの美人の妹からか?」

「いいえ、お父様からよ」

「これは配達員から預かった手紙だ。早く読んだ方が良いんじゃないか?」

「そ、そうね」


 そう言ってサラがペーパーナイフを取りに部屋に入ると、ロックもそれに続いた。

 サラはロックのことに気が付かないまま、手紙を読み始めた。

 サラが追放されてから一度も手紙など送ってこなかった父親。そもそも、王都にいた時ですら年に数度しか会わなかった。

 その父親がわざわざ手紙を送って来た。それもお金のかかる配達員を使用してだ。

 サラは深呼吸をして、そんな手紙を読み始めた。

 じっと読むサラをロックとエリオットは何も言わずに見守っていた。その間にハンナが起きてきたが、エリオットたちと同じように静かにサラを見守っていた。

 そして、手紙を読み終えたサラにエリオットが声をかけた。


「どうしたんだ?」

「アリスちゃんが流行り病になったみたい。それで、治療費にお金がかかるからお金を送れって」

「金? 追放されているサラに無心してきているのか、君の父親は!」

「アリスちゃんが売った本の売り上げを私に預けてると思っているのよ。でも、そんなことはどうでも良いのよ。アリスちゃんが病気って……大丈夫かしら」


 サラにとって唯一の肉親とも呼べるアリスが病気になったと聞いてサラが心配で仕方がない。しかし、サラが行ったとして何ができるか分からない。

 それにサラは王都を追放された身である。王族の、つまりジェラール王子の赦しが無かれば王都に戻れない。見つかれば王家反逆罪として処刑されてしまう。

 でも、あの父親がわざわざ手紙を送って来たのだ。それだけでアリスの状態が良くないということが分かる。

 サラは不安な顔をしていると、ハンナがサラの手を握った。


「ママ、お姉ちゃんに会いに行こうよ」

「え、でも……私が行ったとして」

「ママが行ったら、お姉ちゃんも頑張れるよ」

「そうかしら?」

「絶対そうだよ。それに……」


 悩むサラにハンナはまっすぐとした目で断言した。


「今行かないと、後悔するよ」


 ハンナの瞳と言葉がサラの背中を押した。


「エリオット、私、アリスちゃんに会いに行って来る」

「それは王都に行くと言うことか?」


 それまで黙って聞いていたエリオットがサラに確認する。

 迷いを捨てたサラははっきりと答えた。


「ええ、王都にいるアリスちゃんに会いに行くわ。だから、エリオットとハンナちゃんはお留守番お願いね」

「俺たちも王都に行く」

「え! 悪いわ。私一人で大丈夫よ」

「そうじゃないんだ。サラたちのことは関係なく、そろそろ王都に行こうと思っていたんだ。流行り病の話は俺も聞いている」

「でも、流行り病よ。あなたやハンナちゃんにうつったらどうするの?」

「そんなことを言っていたら、サラだって一緒だろう」

「でも……」

「それに、昔話した悪友のことが心配だ。だから、一緒に行こう!」


 そう言ったエリオットは、先ほどまでの険しい顔から晴れやかな顔になっていた。

 昨夜、影より王都で病が爆発的に増えていると報告を受けていた。そのため、王都に戻ろうと決めていたのだ。初めはハンナをここに置いていくことも考えたのだが、遠く離れた場所にハンナを置いておくことへの不安の方が大きかった。

 王都に戻ると決めたのだが、エリオットはそれをサラにどう告げるか悩んでいたのだった。

 全く血のつながりのない三人ではあるが、数ヶ月の共同生活でエリオットは家族のようなつながりを感じていた。

 突然の別れを告げる決心がつかなかった。

 だから、サラが王都に行くと言い出したのはありがたかった。

 そんなエリオットの力強い言葉を聞いて、サラは言った。


「わかった。みんなで王都に行きましょう」

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