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第77話 サラとエリオットのダンス

「そう言えばサラが、人が作った料理を食べているのを初めて見た気がする」

「あら? そうね。この村に来てから初めてかもしれないわね。別に、食べないわけじゃないのよ。自分で作るのが好きだし、色々試したいことがあるから自分が作るけど、誰かが作った料理を食べるのも好きよ」

「そうか、じゃあ今度俺が何か作ってみようかな」

「あら、いいわね。エリオットも一緒に料理しましょうよ。楽しいわよ」


 そう言って素直に笑うサラを見て、エリオットは可愛いと思ってしまった。

 着飾らない自然体の笑顔。それはサラの心の綺麗さを物語っているような笑顔だった。

 思わず見とれていたエリオットは、自分に良い聞かせた。

 俺に恋をしている暇はない。

暇が無いのだが、それが沸き上がる感情を無くしてしまうことは出来ない。エリオットは命を救われたあの時から、サラに対する気持ちに変化があった。命を救ってくれただけでなく、隠したがっていた力をサラは自分のために使ってくれたのだ。優しく、そして料理上手で謙虚。アリスのように絶世の美女と言うわけではないが、親しみがあり愛らしい容姿の上、表情豊かである。

 好ましい。

 しかし、エリオットには光の聖女を探し出し、王都に連れて行くと言う使命がある。

 一生この村にいるわけにはいかない。

 だから、この感情のつぼみに美しいガラス瓶に閉じ込めることにした。


「どちらにしろの望んだ相手と結ばれる立場でないからな」

「何?」


 頬に煮物の汁を付けたサラが不思議そうに首をかしげながら、エリオットの顔を覗き込んだ。


「いや、何でもない。頬についてるぞ」


 そう言いながらエリオットはサラのすべすべの頬を指でぬぐった。


「え、あ! 恥ずかしい」


 恥ずかしがるサラを愛でていると、新しい音楽が流れ始めた。

 エリオットはサラの手を取って立ち上がった。


「踊ろうか」

「ちょっと待って」

「待たない」

「もう……」


 エリオットは戸惑うサラの身体を引き寄せると踊り始めた。

 ワルツ

 社交ダンスの基本。

 音楽に合わせてくるくると回る円舞曲。

 ナチュラルターン・アウトサイド チェンジ・ナチュラルターン・アウトサイド チェンジ・ナチュラル スピン ターン・リバース ターン

 簡単なステップとターンにサラは楽々ついてくるのを確認すると、エリオットはレベルを上げていく。

 そのエリオットに悠々と合わせていくサラ。


「サラってダンス上手なんだな」

「エリオットこそ、剣術だけでなくダンスもできるのね」

「俺の運動神経を舐めてもらっては困る。おっ、音楽が変わるな」

「あら、チェチャチャね。エリオット大丈夫?」


 チェチャチャはアップテンポなダンスだ。基本的なワルツはエリオットが教養として学んでいてもおかしくない。しかし、チャチャチャのような激しめのダンスは社交界ではあまり踊られない。なぜなら、激しい踊りのため踊りながら話をすることもできないし、踊り終わって息が上がるなど淑女として恥ずかしいふるまいだからだ。

 だから、こういう田舎で踊ること自体目的にしているときに良くかかる曲をエリオットが知っているはずがないとサラは思っていた。

 しかし、そんなサラの心配は杞憂に終わった。

 サラはエリオットに合わせ、エリオットもサラに合わせる。二人はお互いを補いながら、軽やかに楽しそうに優雅に踊る二人。

 音楽が終わり、フィニッシュを迎えると、いつの間にか二人の周りには人だかりと拍手の渦ができていた。


「楽しかったわ、エリオット」

「ああ、俺もだ」


 息を切らしながら見つめ合う二人の所に、ロックが大きく拍手をしながらやって来た。


「さすが、兄貴!」

「かっこいい!」


 そんなロックを村娘たちが跳ね飛ばした。

 まずい。サラは偽装恋人になってエリオットを守る約束を思い出した。

 村娘たちからエリオットを守るべく、立ちはだかった。


「サラ先生! 一緒に踊ってください」

「あたしも!」

「ワタシも」


 娘たちは我先にと、サラにダンスの相手を申し込んできた。エリオットをそっちのけで。

 目を丸くして驚いているサラはどうしたものかと思案していると、グンマ爺の孫娘ジェシカが不安そうに聞いてきた。


「ダメですか?」

「ダメじゃないけど、私で良いの?」

「サラ先生が良いんです」


 ジェシカをはじめ、娘たちはみんな、尊敬のまなざしでサラに訴えかけた。

 そこにエリオットが疑問を投げかける。


「女性同士で踊れるのか?」


 男女で踊るダンスは当然明確に男性と女性では踊り方が違う。だから女性同士で踊る場合、どちらかが男性役となる。

 そんなエリオットにサラは得意顔で言った。


「あら、エリオット。アリスちゃんのダンスの練習相手は誰だと思ってるの?」


 サラは女性にしては背が高い。だから、男性役をしても全く問題なかった。逆に背が低い男性だとバランスが取りづらい。

 サラは男性がするように片膝をついてジェシカに向けて手を差し出した。


「お嬢様、私と一曲踊っていただけますか?」

「きゃー! サラ様!」

「いいな、ジェシカ」


 いつの間にかサラ先生からサラ様になっていた。

 ジェシカは顔を真っ赤にしながら、サラの手を取る。するとサラは先ほどエリオットがしたようにジェシカの身体を優しく引き寄せると、ゆっくりとステップを踏み始めた。

 サラはアリスに教えていたと言っただけあり、ジェシカが気持ちよく踊れるように上手にリードする。

 それを見ながらロックが言った。


「兄貴、あいつ取られちゃいましたね」

「ああ」

「仕方がないので、ボクと踊りますか?」

「俺、女性役は出来ないぞ」

「ボクもです」


 パートナーがいないエリオットとロックは、仕方なくサラたちのダンスを眺めながら食事をするしかなかった。

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