アリスから渡されたお金を地下実験室に隠した後、サラは今後どうするべきか考えていた。
当面の生活費以上のお金が手に入った。
それを食いつぶすような生活はしたくない。
そうすると、考えられるのは投資だ。
エリオットとハンナのおかげで、畑は大きくなり、収穫量も期待できるだろう。
次に畜産に手を出したい。
手っ取り早いのは鶏だ。
毎朝、新鮮なタマゴが手に入るのはありがたい。お肉も食べられる。糞は畑の肥料となる。
豚などよりも手軽に育てられるが、狼たちの餌食にもなりやすい。プリンが狼除けになってはくれないだろうか? しかし、鶏たちもプリンに怯えてしまうかもしれない。
そこは実際に試してみないと分からない。
まずは、数匹飼って様子を見ながら、数を増やそう。
とりあえずは狼やキツネ除けの柵を作って……
「……ラ」
そうだ。鶏の柵はロックを通して、村の人に依頼しようかしら。お金はあるのだから、ちゃんとした報酬を渡して。
エリオットかハンナからロックに話をすれば、ロックも快く受けてくれるだろう。
そうすれば、村の人たちとの交流もできるから、一石二鳥かも。でもあまりお金を持っているのを知られると、嫉妬ややっかみも出るかもしれないわよね。
そのあたりのさじ加減はロックに相談すればいいかしら。
「サ……」
水田もしたいけれど、なかなか難しいわよね。ここは川の上流だからあまり水を取ると村の人たちから文句も出るだろうし。そもそも水田って確か、土から違うのよね。なかなか難しいわよね。やっぱり、小麦が良いかしら。小麦と卵と牛乳があれば、料理の幅は格段に広がる。ペコも種付けすれば、牛乳が取れるかしら? 雄牛を買って来て、仔牛を産んでもらって、牛を増やすのもいいわね。
ああ、夢が広がる……
「サラ!」
「はい!?」
サラはエリオットの声で我に返った。
畑を耕しながら物思いにふけていたサラは、エリオットからの呼びかけに全く気が付いていなかった。
「どうしたの?」
「どうしたの? は、こっちのセリフだ。そろそろお昼にしようって、ずっと声をかけていたのに、ぼーっとしたまま、ひたすら鍬を振るって、ちょっと怖かったぞ。それにどこを耕しているんだ」
気が付くと、サラは関係ないところまで土を耕していた。
サラは焦って返答する。
「ごめんなさい。ほら、アリスちゃんからお金をもらったじゃない。だからそれの使い道を考えていたの」
「なんだ、サラ。綺麗なドレスとか宝石とかバッグとか、何を買おうか悩んでいたのか?」
「え! そう見えた?」
「ああ、ぼーっとしながら、時々ニヤニヤしていたからな。女性がそんな顔するときって、そう言うことを考えているときじゃないのか?」
エリオットの亡くなった奥さんはそう言う人だったのだろうか? そんなことをふと思いながら、サラはエリオットの言葉を否定する。
「違うわよ。あのお金で鶏を飼おうかと考えていたのよ。鶏は卵を産んでくれるし、お肉も食べられるから、前々から買いたいと思ってたのよ。あれだけのお金があれば数匹飼ってもいいかなって。卵の使い道なんて無限にあるからね。それと、ペコのパートナーも買って、牛を増やそうかと……ドレスや宝石なんて、私には似合わないから……」
「そうか? 俺はそうは思わないがな」
「何言ってるのよ。鶏はいいわよ。卵をふんだんに使えれば、普通の料理からお菓子まで幅広く使える上、栄養もあるからいくらあってもいいわよ。ペコだって妊娠すれば牛乳が取れるから便利よ!」
「いや、そうじゃない。俺が言っているのはドレスの方だ。サラは似合うと思うぞ」
エリオットは真面目な顔で言った。
冗談も軽口でもない。ただただ、心に思ったことを素直に発したエリオットの感想。
それはサラにも感じ取れた。
「あ、ありがとう」
サラは恥ずかしそうに前髪を整える。
そんな、サラを微笑ましく見ながらエリオットは続ける。
「まあ、そのままでも十分可愛いぞ」
サラは真っ赤になりながら、エリオットに背中を見せる。
「そんなお世辞を言っても、何もないわよ。さあ、お昼にしましょう」
そう言うと、すでに木陰で休んでいるアリスたちの所に向かった。
サラがお昼の準備をしている間、アリスはエリオットに近づいた。
「何やってるのよ! あんな事言ったら誰だって好きになっちゃうじゃない。ふざけないでよ! バカ」
そう言って、他の二人に見えないようにエリオットの脇腹をパンチしたのだった。