エリオットと一緒に寝ると言い出したアリスを、サラが止めたのだった。
アリスがにっこり笑って言った。
「ねえ、どうして? どうして、アリスがエリーと添い寝をするのをサラが止めるの?」
「どうしてって、そんなの決まってるじゃない。男女がひとつのベッドで寝るなんてダメよ」
「なんでダメなのよ」
「だって、ひとつのベッドで寝るのって、夫婦だけでしょう。だって、そうじゃないと眠っている間に勝手にキスされちゃうかもしれないでしょう」
「キスくらいいいわよ」
そう言うと、アリスはエリオットの頬にキスをした。
そんな行動を見て、サラは冷静に言った。
「頬にキスするなんて挨拶と一緒だから、別にいいわよ。唇同士でキスをするのはダメよ。私みたいに赤ちゃんが出来ちゃうわよ」
赤ちゃんが出来たというサラの言葉に一瞬驚いたが、キスで赤ちゃんが出来ると信じているサラの様子を見て、アリスはホッとした。
そしてアリスはサラの間違った知識の矛盾を突いた。
「ねえ、サラ。キスで赤ちゃんが出来るなら、女の子同士でも子供ができるのかしら?」
「ハハハ、何言ってるのアリスちゃん。女の子同士で赤ちゃんは出来ないわよ」
「じゃあ、女の子同士でもできるキスじゃ、赤ちゃんが出来るはずがないじゃない」
「……え、キスじゃ、赤ちゃんは生まれないの?」
サラは助けを求めるようにエリオットの赤い瞳を見た。
エリオットは目を閉じると、その長いまつげが揺れる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「だから俺はずっと、キスでは赤ちゃんは生まれないと言っていただろう」
「じゃあ、どうやって赤ちゃんが生まれるの?」
「それはね……」
戸惑うサラの耳にアリスは口を寄せて、“本当の赤ちゃんの作り方”を教え始めた。
エリオットは、アリスが本当のことを言っているのか不安だったが、アリスの言葉にどんどん真っ赤になっていくサラの顔を見て、間違っていないだろうと確信した。
「赤ちゃんを授かるのに、そんなことしなければならないの? 恥ずかしくて死んじゃうわよ」
「大丈夫よ。恥ずかしくて死んだ人は居ないから」
「で、でも、アリスちゃんがエリオットと一緒に寝るって……だめ、ダメ、駄目よ」
「それはアリスが、エリーの赤ちゃんを産むのがダメなの?」
「そうよ」
「でも、サラのお腹にはエリーの赤ちゃんがいないんだから、いいんじゃない。エリオットがサラと結婚する必要はないでしょう。だったら、アリスがエリーと結婚しても良くない?」
「そ、それは……いやいや、駄目よ。結婚は好きな者同士がするものよ」
貴族令嬢ともあろうサラは恋愛結婚が普通だと言う。その純粋さが微笑ましくアリスはにっこりしてしまう。
「そうね。アリスもどうせ結婚するなら、好きな者同士がいいわね。じゃあ、アリスはエリーのことが好きなんだから、何の問題はないわよね」
「アリスは好きでも、駄目なの!」
サラは何とかしてアリスの行動を止めようとする。それがどうしてか、詳しく考えようともせず。
だから、アリスは考えさせるように質問する。
「ねえ、なんでアリスとハンナちゃんが一緒に寝るのが良いのに、エリーとはダメなの?」
「それは、エリオットが男だからよ」
「じゃあ、ロックだったら?」
「それこそダメよ」
「そこにサラの気持ちの違いはあるの?」
アリスに言われて、サラは自分の気持ちを考える。
アリスとハンナが一緒に寝るのは問題ない。問題ないどころが、二人が仲良くて嬉しい。
ロックとだと考えると論外だ。アリスがロックのことを好きでもないのに認められるわけが無い。
エリオットとアリスは……
「ねえ、お姉ちゃん。ハンナと一緒に寝よう」
サラの思考を遮るようにハンナが言った。
そして、アリスの手を引っ張って寝室に行こうとする。
「ちょっと待って、ハンナちゃん。今、大事なところだから」
「ねえ、お姉ちゃん。あまりママをいじめないであげて」
「いじめてなんて……」
アリスが言いかけると、ハンナは天使の笑みを浮かべて言った。
「少しは、ママたちのペースに任せてあげて」
そう言って、ハンナはアリスの手を強く引っ張って寝室へと連れて行った。
そんな二人を見送り、サラと二人っきりになったエリオットは言った。
「俺たちも一緒に寝るか?」
「エリオットのバカ!」
エリオットの冗談を受け止める心の余裕のないサラは、思わず叫んで自分の部屋に行ってしまった。