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第65話 サラの心のつぼみ

 一行はサラの大事な畑に移動した。

 子グマのプリンの上に乗ったハンナが先頭に、エリオットとその側を離れず、たわいのない話を一方的にしているアリス。そして最後はサラとロックという一団となった。

 自然とロックがサラに話しかける形となった。


「なあ、サラ。あれは、良いのか?」

「あれって何よ」

「お前の妹のことだよ。確かに兄貴は良い男だ。女にもてるのもわかる。でも、お前は良いのか?」

「エリオットとアリスちゃんが仲良いことは私も嬉しいわよ」


 そう、嬉しいはずなのだ。

 アリスがエリオットと決闘をすると言った時は悲しかった。サラが好きな二人が喧嘩している姿を見るのはつらかった。しかし、アリスは一度言い始めると聞かない。その上、エリオットの強さを知っていたら、強くは止められなかった。

 だからと言って悲しくないわけではなかった。

 その時のことを考えれば、今の関係の方が望ましい。家族の仲の良いのは、サラの理想だ。

 金儲けのことしか考えていない両親。夫婦というよりもビジネスパートナーのようだった。サラが生まれた時も使用人にまかせっきり、アリスが生まれた時は、使用人も辞めさせ、サラに子育てをさせるような両親だった。

 貴族の家は、そう言うものだと思っていた。

 でも、サラはアリスに対して愛情を注いだ。淑女教育とともに。

 そんな愛しのアリスがエリオットを好きになった。

 家族として祝うべきことなのに、素直に祝うことができない自分にサラは驚いていた。

 だからと言って、それを表に出すようなことはしない。

 ただ、中にため込むだけ。


 畑に着くと、そこにはトウモロコシが大きく実っていた。

 まだ、畑自体大きくは無いから数は多くないものの、豊作と言ってよいほど出来は良かった。

 サラはそれをいくつかもぎ取ると、ロックに渡した。

 その間、エリオットがアリスにトウモロコシの取り方を仲良く教えていた。


「アリスちゃんは、お姉ちゃんと一緒に収穫しようか。エリオットには新しい畑を耕して欲しいし」

「でも、新しい畑ってハンナちゃんと牛がしてるわよ」


 アリスに言われてみると、ハンナが牛のペコに乗って畑を耕していた。


「えーっと、ほら、エリオットには木を切ってもらわないと」

「それって、あれ?」


 子グマのプリンは木に何度もぶつかってなぎ倒していた。

 その様子にサラも驚いた。

 まさか、プリンまでハンナの指示で働くとは思っていなかった。


「そう言えば、エリオット。ロックが呼んでいたわよ」

「そうなのか? 分かった」


 アリスとエリオットを引き離したいがためについたサラの嘘に、エリオットはあっさり信じた。

 そんなエリオットの背中をピンクの声で見送ったアリスは、サラに話しかけた。


「ねえ、サラ。どうしてアリスとエリーを引き離そうとするのかな?」

「引き離そうなんて思ってないわよ」

「ふーん、そう」


 アリスは後ろ手に組んで、上目遣いでサラに言った。

 そしてさらに背中を見せると呟いた。


「まだ、弱いのね」

「何? アリスちゃん、何か言った?」

「何でもないよ。アリスはもう疲れたから休むわね」


 そう言ってアリスはさっさと木陰で休み始めた。

 エリトットと一緒に土にまみれるサラは、アリスが見たことが無いほど、輝いた笑顔を見せていた。それを見ながらアリスはこれからの作戦を考えていた。


「さて、もっと過激に行かないと、まだ気が付かないかしら」


~*~*~


 その夜、食事もお風呂も終わった時、アリスが爆弾発言をしたのだった。


「ねえ、アリス。せっかくこんな所まで来たのだから、一人で寝たくないな」


 アリスはネグリジェに枕を抱えて、サラ達三人の前でそう言った。

 当然一番に口を開いたのはサラだった。


「じゃあ、今日は私と一緒に寝ましょう」

「……サラとはいつも寝てたから、やだ。ハンナちゃん、一緒に寝ましょう」

「いいよ」


 ハンナは寝る前の甘いホットミルクの最後の一口を飲みながら言った。

 しかし、よく考えるとアリスに用意した部屋のベッドは二人で寝るには小さい物だった。

 それに対してハンナが来てから、サラのベッドは二人で寝られるように多きものにしていた。だからサラはアリスに提案した。


「じゃあ、私がアリスちゃんの部屋に寝るから、二人は私の部屋で寝たらどう?」

「あら、そうなの? サラのベッドを使うのは心苦しいわね。じゃあ、ハンナちゃんと寝るのは諦めて、エリーと一緒に寝ようかな。エリーのベッドって大きいわよね」


 アリスの言う通り、エリオットのベッドは男性用で、なおかつ大きめの物を使用している。

 エリオットとアリスの二人が寝るくらい余裕なほどに。

 それを聞いて一番に声を上げたのは、当人のエリオットではなかった。


「ダメよ! アリスちゃん」

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