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第34話 川遊び

 雨が続いた後の天気の良い朝、朝食を食べながらエリオットが言った。


「今日は暑くなるぞ。川に行かないか?」

「かーわー」


 口の周りにケチャップを付けたハンナが、文字通りもろ手を上げて賛成する。

 雨の少ないこの地域では、川に水は少ない。それが数日の雨で増水しており、ちょうどよい感じになっている。

そのため、エリオットが川遊びに行こうと誘っているのだ。

 雨上がりの雑草抜きを考えて、少し気分が落ち込んでいたサラはエリオットの誘惑に傾きかかった。


「いいわね……いや、駄目! 雨後の雑草は小さいうちに抜くのが鉄則!」

「しかし、こんな機会はそんなにないぞ。冷たくて気持ちいいぞ」

「きもちいいぞ」


 エリオットとハンナは、がっつりタッグを組んでサラを誘う。

 雨上がりのさわやかな風に揺られながら、川に足をつけて涼むと気持ちいいだろう。

 しかし……


「だめだめ、今日は畑の雑草を抜くの!」

「……魚」

「え!?」


 サラの決意の言葉に対し、エリオットがぼそりと呟く。

 しかし、それはサラの決意を砕く一撃だった。


「とれたての魚は美味しいだろうな。塩を振って、じっくりと焼くと、油がジワリと染み出てくるよな。その脂がまた香ばしんだよな」


海から遠いこの村では魚は貴重である。だから、どうしても、野菜料理がメインになり、たまに肉が食べられるくらいだ。だからこそ、エリオットが捕ったイノシシは貴重だったのだ。

そして、それ以上に魚は貴重なのである。

サラは考えた。地下にはまだ、多少肉はある。しかし、魚はしばらく料理していない。

サラはエリオットに尋ねた。


「……何匹?」

「ははは、何匹欲しいんだ?」

「10匹は欲しいわ」

「10匹は多くないか? 捕れたとしても、食べ切れないだろう」

「大丈夫、そこは私に任せて……でも、私に火をつけたのはエリオットだからね。一匹も釣れなかったなんて許さないからね」


 料理長サラは瞳を輝かせながら笑っていた。

 そうと決まれば、準備は早かった。

 三人はお昼前には川に到着したのだった。いつもは膝くらいしかない川はエリオットの腰よりも上まで増水していた。

 それを見て、サラはハンナに注意する。


「ハンナちゃん、水が増えているから川岸で遊ぶくらいにするのよ」

「わかった。ハンナはカニとるの」


 ハンナは早速、川辺の岩の間を探り始めた。

 サラは微笑ましく見守ったかと思うと声をかけた。


「あら、いいわね。たくさん捕ってね。しばらく綺麗な水にいれてから、唐揚げにするとおいしいのよ。そうそう、蟹だけじゃなくってエビやザリガニもいたら一緒の捕まえてね。一緒に揚げちゃうから」

「……サラ、今日は遊びに来たはずなんだけど」

「そうそう、いっぱい遊んで、いっぱい捕ってね」

「もーう」


 完全に食材を取りに来ているサラにハンナはあきれた。あきれながらも、もう驚かない。

 もう慣れた。

 ハンナはそれよりも、エリオットに驚いた。


「おーい、ハンナ。こっちの準備が出来たら手伝ってくれ」


 エリオットは網を川に仕掛けている。追い込み漁をするつもりだ。

そもそも、今日は川遊びのはずなのに、いつの間にかサラのペースに飲まれて、川食材集め大会になっていた。


「まあ、楽しいからなんでもいいんだけど」


 そうつぶやいたハンナは岩の下から逃げる沢蟹を捕まえる。バタバタとハンナの手から逃げようとする沢蟹を捕まえてバケツに入れ、捕まえてはバケツに入れた。

 金属製の大きなバケツの中で、かさかさと動く沢蟹たち。

 それを見てサラはにこやかに言った。


「さすがね、ハンナちゃん。美味しそうなのがいっぱいね」

「サラは何でも食べ物に見えちゃうんだね」

「そ、そんな事は無いわよ」

「ふーん」

「そう言えば、エリオットが準備出来たって言っていたわよ」


 サラに言われて、ハンナはエリオットを見ると、川を横断するように網を張り終えたエリオットが、こちらに歩いて来ていた。

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