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第32話 ロックと朝食

「やあ、おはよう。お兄さん」


 バーベキューの翌朝、エリオットが水汲みから帰ってくると、そこにはロックがいた。

 百歩譲っても、いるだけならいい。それがテーブルに座って、朝食をとっているのだ。


「いやー、昨日、聞いた通り、これは美味しいですな」


 上機嫌のロックを無視して、エリオットはサラに聞いた。


「こいつの分の朝食って……」

「安心して、私の分をあげたから」

「何を考えているんだ。ダメに決まっているだろう。お前もお前だ。昨日の今日で良く、朝食を食べに来るな!」


 エリオットは妙になじんでいるロックに文句を言う。

 それに対して、不安そうなハンナが口を挟んだ。


「パパ、初めロックの分はハンナの分をあげるって言ったの。昨日、ハンナがちゃんとお世話するからって言ったから。でも、サラが、子供はいっぱい食べないと大きくならないからって……」


 ちょっと泣きそうになっているハンナの頭を撫でながら、エリオットは優しい声で言った。


「そうか、ハンナは良い子だな。サラも優しい」


 そう言って、鬼の形相でロックに向かっていった。


「ウチにやって来るのは良いとして、人の家に来るのに朝食すらとらずに来ると言うのはどういうことだ! 礼儀を知らないのか」

「まあ、まあ、お兄さん」

「そもそも、そのお兄さんと言うのは止めろ、お前と血縁関係になる気は毛頭ない!」

「お兄さんは妹の幸せを望まないのですか?」

「だから、俺とサラは兄妹ではない。俺とハンナはこの家の居候だ!」

「だったら、ボクたちの仲をとやかく言う権利はないですよね」

「権利は無いが、サラが嫌がっているだろう」


 そう言って、エリオットはサラの方を見ながら、ある不安がよぎった。

 嫌っている相手を家に招き入れ、食事をふるまうだろうか? もしかして、サラがロックを嫌っていると言うのは自分の思い込みではないだろうか? そうであれば、自分がやっていることはただの嫌がらせだ。俺にとってサラはただの……

 そう考えているエリオットに、サラが答えた。


「嫌いではないわよ」


 やはりそうか、邪魔者は俺の方だったのか。エリオットは自分の心が沈むのを感じた。

 しかし、サラは言葉を続ける。


「私の料理を美味しいって言ってくれる人を嫌いにはなれないもの。でも、恋愛対象と言われればご遠慮いたします」

「なんだ、遠慮なんていらないぞ。なんせ、ボクは心が広いんだ」


 的外れなロックの言葉を、ハンナがため息交じりに反論する。


「ロック、優しいサラの代わりに、あなたの友達としてはっきり言うわね。あなたはサラに異性として好みでないと言われているのよ。昨日、今日、会った相手のことを好きになるのって、大変なことなのよ」

「わが友ハンナよ。世の中には一目ぼれと言うものがあるではないか。このボクに一目ぼれをしないなって、そんなことがあるかい?」


 ロックの何の根拠もない自信にあきれ果てた三人だったが、ロックの性格は昨日の時点で何となくわかっていたサラは、はっきり言った。


「私はあなたに一目ぼれをしていないし、今のところ、あなたを好きになる要素は何もありません。また好きになる努力もするつもりはありません」


 サラはロックにジェラール王子を重ねていた。

 自信家で、ひとの話を聞かない、メルヘン気質の男性だった。第二王子という立場があったため、ジェラール王子は周りから疎んじられるようなことはなかった。

 そして、 ジェラール王子との婚約が上手くいかなければ、ファーメン家どうなるかという考えから、サラはジェラール王子を好きになろうと頑張った。

しかし、ロックはただの辺境の村の村長の長男である。村の中ではそれなりにチヤホヤされるかもしれないが、サラにはそんなことは関係なかった。今は何のしがらみもない、ただのサラなのだから。

 そんなサラの言葉に気を良くしたエリオットは、ロックにダメ押しをする。


「ほら、はっきりとサラにフラれただろう。あきらめろ。それよりも、昨日の話のつづきだが、お前は人から賞賛を得られる何かを持っているのか?」


 その言葉に、サラはエリオットが旅をしている理由を思い出していた。

 人の、国の役に立つ人材を探している。エリオットはそう言っていた。

 だから、ロックがエリオットの求める人材かどうか見極めようとしているのだろう。

 それに対して、かっこつけるようにロックは前髪をかき上げて言った。


「なんでもだ! ボクは何でも一流にこなせるぞ!」

「そうか、ではまず、剣の腕を見せてもらおうか」


 そう言って、エリオットはロックの腕を引っ張って、外に連れ出した。

 サラの家に住み始めて農作業と素振りばかりやっていたエリオットは、対人練習ができると嬉しそうだった。

 しかし、勝負は一瞬だった。

 へっぴり腰で切りかかったロックは、その剣をエリオットに受け止められると、手が痺れたように剣を落とした。


「おい、どういうことだ。一合しか打ち合っていないぞ」

「ボ、ボクは頭脳派なんだ、君のような筋肉バカと一緒にしないでもらおう!」

「なんだ、それならそう言え。しかし、体力はすべての基礎だぞ、今日から一緒に訓練するぞ」

「い、いやだー!」


 そう言って、ロックは一目散に逃げだしたのだった。

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