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第31話 エリオットの独り言

 エリオットは、ロックの賞賛を受けたいと言う言葉に、詳細を聞こうとする。


「お前は何をなして、賞賛されたいんだ?」

「ちょっと、エリオット。もう日が暮れたから、今日は止めて。ハンナちゃんが寝るの、遅くなっちゃう」

「ハンナは大丈夫だよ。サラがまた、焼きりんごを作ってくれたら待てるよ」

「もうだめよ。食べすぎ。早く寝ないと、暗闇の魔女が来ちゃうわよ」

「えー、光の聖女様がいるから大丈夫だよ」


 ハンナはほっぺに蜂蜜とバターの混ざった甘い汁をつけたまま、にっこり笑って答えた。

 その言葉に反応したのは、ロックだった。


「光の聖女だって! 何処にいるんだ! ボクにふさわしい相手ではないか!」

「えっへん。サラが光の聖女様だよ」

「なんと! やはり、君はボクの嫁にふさわしい!」

「何、言っているのよ。ハンナちゃんも適当なことを言わないの! 嘘だからね」


 サラは慌ててハンナの言葉を否定する。

 ハンナが言っているだけなら、冗談ですむが、ロックに本気にされては困る。サラは発酵令嬢であって、光の聖女ではないのだから。まあ、発酵令嬢であるのも秘密にしておかなければいけないのだが。


「もう、ロックさんもハンナちゃんもエリオットも今日はもう、おしまい! 言うことを聞かないと、二人とも明日ご飯抜きよ!」


 エリオットとハンナの食事は全てサラが作っている。エリオットはたまには変わろうと提案したのだが、サラは頑として譲らなかった。仕方がないので、下ごしらえや後片付けを手伝う程度だった。

 そのため、二人の胃袋はサラにがっちりと掴まれているのだった。


「さー、ハンナ。今日はもう遅いから片付けようか」

「そうだね、パパ」

「ちょっと待て、ボクの話は終わっていない」


 そう言って食い下がろうとするロックの両肩を、エリオットはがっつりとつかんで言った。


「お前は、サラの怖さを分かっていない。サラが飯抜きをすると言ったら、す・る・ん・だ・よ」

「するんだよ」


 エリオットンに続いて、ハンナも言う。

 しかし、たかだか食事抜きの何が怖いのだろうか? 家で食べられなければ、店で食べればいいだけではないか。ロックはそう言いたげな顔で、二人を見ていた。

 エリオットにもロックの言い分はわかる。わかるが、わかっていないロックに、エリオットは続けた。


「……焼き林檎、美味かっただろう」

「……ああ、美味かった」

「サラの料理は普段でも、あれと同様か、それ以上だ」

「美味しいんだから~」

「それがお前ひとりのわがままのために食べられないのだぞ!」

「だぞ!」


 息ぴったりのエリオットとハンナはびしっと、ロックを指さして言った。

 その殺気ともとれる気迫に、ロックはしり込みした。

これ以上、逆らってはいけないと、ロックの本能が叫んだ。それゆえ、言葉を発することもできず、首をただ縦に振った後、ロックは後ずさりを始めた。

しばらく、距離ができると、ロックは叫んだ。


「これで勝ったと思うなよ!」


 そう言って、脱兎のごとく村に向かって走り始めた。

 そんなロックを見ながら、サラはつぶやいた。


「結局あの人は、何のために来たのかしら?」


 こうして、楽しくも騒がしいバーベキューも終わった夜更けすぎ、エリオットは一人、家の外に居た。

 サラとハンナはとっくに深い眠りにつき、遠くで狼の遠吠えやフクロウたちの鳴き声が夜風に乗って流れて来る。

 月は雲の隠れ、周りは暗闇に包まれていた。

 小川に面する岩に腰かけると、エリオットはつぶやいた。


「ロックと名乗る男の身辺を調査しろ」

「分かりました、エーリオ様」

「その名前は使うなと、何度も言っただろう。今の俺はエリオットだ」

「失礼しました、エリオット様。ロックの調査を行います。なお、ご命令いただいておりましたサラ・ファーメンの調査報告書です」

「ああ、ありがとう」

「しかし、なぜエリオット様ともあろう方が、あのような女性の調査を……」

「ハンナが見つけたというのもあるが、サラには何か裏がある気がする」

「エリオット様は、あの孤児に肩入れしすぎです。あの孤児に何があると言うのですが!」

「俺は、ハンナが光の聖女ではないかと思っている。まだ小さいためその力は開花していないが、あと十年もすれば、その力を花咲かせるだろう」

「あの子供が……光の聖女。ありえないです! エリオット様の気まぐれが無ければ、あの時に死んでいたような子供ですよ」

「それを決めるはお前の仕事ではない。口を慎め」

「……申し訳ございませんでした」

「わかればいい。そのまま、調査を進めてくれ」

「分かりました」


 ずっと、一人でいたエリオットの手に、いつの間にか書類が握られていた。

 雲が流れ、月明りがエリオットを照らす。エリオットは書類を読み終えると、その書類を燃やし、川に流した。


「さあ、サラは暗殺者なのか、ただの料理好きの貴族なのか。どちらにしろ、使い道はある。しかし、ハンナがあれだけ懐いているのだ。見たとおりの料理上手な女性でいて欲しいがな」


 そう言って、エリオットはサラの朗らかな笑顔を思い出す。

 サラは人の喜びを自分の喜びに感じるタイプの人間だ。だから、自分のことよりも人のことを優先して、ひとの役に立つための労力を惜しまない。

 そんな人間が暗殺者になるだろうか?

 しかし、プロの暗殺者とは、その本心を外には一切見せない。

 もう少し、時間をかけなければ分からないだろう。軽率な行動は、ハンナのためにもならない。そう考えながら、エリオットは家へと戻って行った。

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